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本格推理 島田荘司・著作
御手洗 潔 シリーズ について
〜宇宙人・御手洗の冒険奇譚〜


横棒



島田荘司・御手洗シリーズの作品群紹介・批評


 「異邦の騎士(改訂完全版)」紹介・批評UP!(09.05.16)   

 「最後のディナー」紹介・批評UP!(08.08.06)   

 「ロシア幽霊軍艦事件」紹介・批評UP!(08.08.09)   

 「セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴」紹介・批評UP!(08.09.13)   

 「魔神の遊戯」紹介・批評UP!(08.10.07)   

 「龍臥亭幻想」紹介・批評UP!(09.04.26)   

 「UFO大通り」紹介・批評UP!(09.06.20)   






本格推理界に燦然と輝く名シリーズ

本格推理界のドン、キングと常に称される島田荘司の名シリーズ。
私が本格推理を読み始めた頃がまさにシリーズの最盛期の頃であり、はじめの1、2年はこのシリーズを中心に読んでいた記憶がある。
いずれもスケールのでかい話が多く、冒険奇譚としても非常にスリル満点に読む事ができる。
しかしトリック自体は意外にすぐわかりやすいものが多い。
トリックよりも御手洗の活躍ぶりを読むためにあるヒーローものといえるだろうか。


スーパーマン御手洗

主人公御手洗潔(みたらい・きよし)は背が高く、あらゆる語学に精通し、ギターもプロ以上、おそらくスポーツをやらせてもそつなくこなす、とにかく万能なスーパーマン。
顔もイギリスの血が入っているのか(ちょっと設定を最近忘れてきました)、日本人離れした端正な顔だちらしく、実際の絵はどこにも載っていないのにも関わらず、とにかく女性ファンが多い。
数年前の人気ピーク時には少女マンガの題材によくされていた。

ちなみに御手洗のモデルは明らかに、かの有名なシャーロックホームズ。
鋭い洞察力、観察力で瞬時に物事の真相を見抜き、その集中力のあまり周りを気にしない奇行、変人ぶりもまさにホームズ。
御手洗とイギリスとの関連性がやたら出てくるのもホームズの影響でしょう。
(ところで御手洗はシリーズの裏ものとして、あのロンドンでの有名な怪奇事件・切り裂きジャック事件も解決しています)



ワトソン役の石岡和己

この少女マンガでの人気の火付けとなったのは、相棒でありワトソン役の石岡和己の存在。
いい歳して、このおっさんは大丈夫なのか?と心配するほどのボケぶりをみせつつ、御手洗の活躍を本にするなどして小説家などとしてはまずまずの成功を収める石岡だが、しかし御手洗の欠点の一つ、料理の腕の無さを見事にカバーする料理上手、家事全般を引き受けるといった女房役となっている。
女性に非常にモテながら、極度の女嫌いで彼女を作らない御手洗と、引っ込み思案で彼女ができない石岡とを勝手に結びつけ、ボーイズラブ的な設定を勝手に位置づけたことが大うけしたらしい。


いきなり話が逸れたが、とにかく本格推理ファンのみならず、性別、世代を超えて人気のシリーズがこの御手洗シリーズだ。


時空と空間を越える壮大なストーリー

御手洗シリーズの一番の特徴はなんといっても、他の推理小説とはまるでスケールの違う壮大さに他ならない。

島田荘司の名を一気に世間に知らしめた名作、「占星術殺人事件」では40年も前の未解決事件を、話を聞いただけで現在の犯人の居場所まで当ててしまうところから始まり、「斜め屋敷の犯罪」ではそこまでするかね?という大仕掛けなトリックを登場と同時に瞬時に解いてしまい、「暗闇坂の人喰いの木」では世代を超えたDNAを紐解き、「水晶のピラミッド」ではついにエジプト文明の時代まで遡ったかと思えば、映画になる前のタイタニックの話も間に挿話されるという飛びっぷり。ちなみに御手洗はこの話の中で未知との生物との会話すら成功させている。
「眩暈」でも驚くような空間移動を成し遂げ、そして事実上のシリーズ最終話「アトポス」では絶対絶命のヒロインを助けるべく、話の最後に白馬に跨り颯爽と登場したかと思えば、指一本で建物を動かし物語をいつもどおり瞬時に解決させてしまうという離れ業を見せる。


そのどれもがアンビリーバボー。
その思考の飛躍ぶりはもはや人類の知能を飛び越え、宇宙人であるとさえ称せる。
(ちなみに御手洗を宇宙人と名づけたのは親友平野至上主義者M)

地球狭し、時空短しと飛び回り、全ての物事をこともなげに快刀乱麻してしまうそのスーパーマン・御手洗潔の壮大なストーリー。
もはや推理小説の枠を遥かに凌駕してしまっている。

ちなみに島田荘司はこの御手洗シリーズがあまりに突飛すぎたため、このストーリーを超える作品を書くことが不可能なほど困難になってしまい、あとは惰性で御手洗シリーズや、そのサイドストーリーを書いて現在に至る。
特に水晶、アトポスでやり過ぎ、一線を越えすぎてしまった。

ちょうどレインボーブリッジでシリーズの大半を終え、他の登場人物にスポットを当てて続編が出ている踊る大捜査線シリーズと同じ末路を辿っている。


御手洗の独特の女性観、日本人観

ところで主人公御手洗にはシリーズで一貫した思想がある。
それが女嫌いであり、日本人の性癖を極度に嫌う姿勢だ。

女性はどうしても表に出る際に化粧をする。
つまり他人に見られることを前提に、他人に評価されることを前提にしている。
そして他の女性よりも幸せになりたいという、比較意識。

同時に日本人の性癖。
垣根なく互いに干渉しあい、他人の動向を常に気にかけ、他人と比較し、他人の目を気にする。
そのあさましい島国根性。

この、自分自身でなくまず他人ありきの思考が、イギリスの血を引く御手洗には耐えられない事らしい。


他人ではない、自分がどうあるかだ

自分はこの御手洗の考えに近い思想があり、それを教えられたのが思えば平野至上主義者Mだった。

彼の自由奔放な生き様、自分を信じ(悪く言えば自信過剰)、他人の事など気にかける必要はないのだと体現し、それでいてトータル的には彼としてのアイデンティティをしっかり確立している、その様。

彼のような常人を逸した人物と親友になれたことで、それまでもやもやっと自分だけの中でなんとなく形になりつつあった私の人生観は一気に確立された気がする。


他人と比較するあまり、他人より幸せである、成功者であるという事を少しでも具現化、表面化したいためにブランドものを買い求め、着飾り、偽装する。
そのような女性は確かに私は好きになれず、きちんと自分を確立し自覚している女性を好むようになった。

受験戦争、学歴社会、エリート主義、その全ての根底がこの島国根性からきている。
他人ではない。まずは自分がどうあるか。
もともと合理主義の家庭で育った私は、この辺で少し人と違うとよく言われる。
だからどうだと言うのか。
結局、それが人に迷惑をかけないかどうかだ。
最低限の礼儀と常識さえきちんと守れば、あとはいかに自分自身をきちんと自覚し自分を制し、そして自分を活かせるか。

変な宗教に走ったり、下手に欲をかくからマルチ商法に引っかかったり、結局は他人よりも少しでも得をしたい、自分だけは幸せになりたい、という浅ましい考えが全ての諸悪の根源だ。


話がまたまた多いに逸れたが、これが御手洗シリーズに共通する思想であり、私が評価する点。



あとは親友Mにお任せします

さて、御手洗シリーズといえば、私より遥かに造詣が深いのが推理の先輩親友M。
後で彼の御手洗シリーズに関する評論の寄稿があることを待ちたいと思います。

まあ気まぐれな彼のことですから、いつになる事やら・・・







(2006.11.03UP)






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