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2012ロンドンオリンピック
日本代表U-23
〜44年ぶりのベスト4への軌跡〜

パート1 〜優勝候補スペインを下し、下馬評覆す予選リーグ突破〜

横棒


下馬評覆した関塚ジャパンの44年ぶりのベスト4を追う

ちょうど個人的に難題である資格の試験勉強に忙しく、片手間で観ていたロンドンオリンピック。

その中でサッカー男子は女子のなでしこと違い、下馬評が散々で絶対に予選リーグを勝てず、本戦突破は無理だろうと言う意見が大半を占めた。

その要因となったのは、同じ予選リーグに入ったのがよりにもよって優勝候補のスペイン代表だったということ。

しかも日本は初戦でそのスペインと当たる。


否が応でも、前回北京での反町ジャパンが予選リーグで3連敗を喫した悪夢が誰の脳裏にもよぎったはずだ。


更に、国内で最後の壮行試合となったニュージーランド戦で、あろうことか引き分けで旅立つしか無かったその関塚ジャパンの背中に、いったい誰が期待をかけられようか。



・・・だが、関塚ジャパンはそこから蘇った。

最も可能性の高い戦術を見いだし、そして初戦のスペイン戦にぶつけた。

そう、南アW杯で岡田ジャパンが土壇場になって作戦を変えたように、関塚ジャパンも土壇場になって作戦を変え、そしてそれが功を奏した。


スペイン代表を初戦で破った関塚ジャパンは当然のごとく予選リーグを1位で通過し、そして準決勝まで駒を進めた。

最後は準決勝、そして3位決定戦と2連敗で幕引きとなり、後味は多少悪かったかもしれないが、しかし香川すら呼べず、オーバーエイジ枠でも限られた人選しか出来なかった本来のU−23代表ではない関塚ジャパンが、世界を相手にここまで躍進できた事は大いに評価できる事だ。


この戦いぶりは、今後のA代表にも通じるものがあり、そして最後に2連敗した敗因も含め、非常に参考とすべきところが多い。


ようやく個人的にも試験が終わり、まだ記憶が新しいうちに、このロンドン五輪の事はまとめておく必要がある。


ということで、予選リーグを突破する2012年8月1日までをパート1として、その後の本戦、準々決勝から3位決定戦までをパート2、もしくはパート3と分けてここに書いておきます。


(ちなみになでしこも書く予定・・・このペースでいつになったら全部終わる?)





トゥーロン国際大会の失敗を踏まえ・・・窮地に立たされた関塚ジャパンが選んだ永井1トップ策

まず先に述べておかないといけないのは、私はあまり五輪代表には主眼を置いていない事。

しょせんA代表とは一線を引かれ、結局サテライトチームのような扱いでしかない五輪には元来興味が薄い。

ということで、五輪本戦までの経緯はあまり詳しくないので、とりあえず試合を観た結果ではなく見聞きしてきた情報をまとめる形とします。



関塚ジャパンの基本布陣はA代表と同じく4−2−3−1。

そうなるとその1トップに誰を置くかでサッカーはガラリと変わってくる。

五輪直前まで関塚ジャパンの1トップの第一候補は大迫だった。

まず身長があり、ストライカーとして総合的に能力が高い大迫の存在は関塚ジャパンには重要であり、必要不可欠なピースと思えた。


しかし、五輪直前の絶好の仮想本番となった5月のトゥーロン国際大会で、これまでと同じく大迫を1トップに置いた関塚ジャパンは予選リーグを1勝2敗に終わってしまい、準決勝トーナメントまで進む事が出来ずに国内から批判が集中した。


この失敗を受け、関塚監督は大迫との決別を決意し、大迫が五輪代表から外れるというサプライズ発表となった。

そして代わりに選んだ1トップはスピードが武器の名古屋のFW永井だった。


正直、これまでの定石としては大迫のようなポストプレーに長けたある程度のターゲットマン、ポストワーカーが1トップに座り、その後ろに3シャドーの形で清武、大津、東らアタッカー達が並ぶこれまでのスタイルは当然の策であり、これに更にスピードが武器の永井を組み合わせたからといって、一体前線4人の役割分担が出来るものかどうかと疑問ばかりだった。


結局最後の国内壮行試合となったニュージーランド戦では1−1の引き分け、次のベラルーシ戦は1−0ながらも、そのどちらの得点も後半から出場したヴェルディからサプライズ選考となった長身FW杉本の土壇場での得点であり、とても永井の1トップがそれほど成功とも思われなかった。


だが、五輪本番前の最後の試合となったメキシコ戦、まさにこの永井1トップによる前線からのプレッシャーが功を奏し、優勝候補の一つであったメキシコに2−1で勝つという結果をギリギリ残し、チームに自信を植え付ける事に成功した。




そして迎えた五輪本番、初戦のスペイン戦

そして迎えた2012年7月26日グラスゴーでのスペイン戦。

相手のスペイン代表はなんといってもA代表が史上初のユーロ連覇を成し遂げたばかりで、その間にはもちろんW杯の初の栄冠も獲っており、まさに絶好調。

更に五輪代表自体も2011年のU-21EURO2011で優勝したメンバーがほぼ選ばれ、更にA代表からはアルバロ・ドミンゲス(アトレティコ・マドリード)、ファン・マタ(チェルシー)、バビ・マルティネス(アスレチック・ビルバオ)らも選出され、スペインの本気度が伝わってくる本気のメンバー選出。

とても香川をA代表の方に優先させざるを得なかった日本に勝ち目など無いと思われた。


そのスペイン代表の布陣は以下の通り↓

7アドリアン
9ロドリゴ     10ファン・マタ
15イスコ 11コケ
5イニゴ 4ハビ・マルティネス
6アルバ      12モントーヤ
3ドミンゲス

1ダビ・デヘア


大方の予想ではA代表と同じく4−3−3で来るものと思われたが、なんとバルセロナと同じく4−3−3の別バージョンである3−4−3の攻撃的布陣を敷いてくる。

絶対に初戦を獲る事により優勝に向けて万全のスタートを切ろうという意図が伝わってくる。








永井1トップに望みを賭ける関塚ジャパン

対して関塚ジャパンはとにかく永井の1トップのスピードに託し、更にその後ろの3人のシャドーがスピードと運動量で前線をかき回す。

オーバーエイジ枠にはセンターバックに吉田麻也、アキレス腱と言われてきた左サイドバックには徳永悠平が入る事で五輪代表の弱点であった守備の安定感がグッと増す事となる。

2ボランチには共にセレッソ大阪の山口螢と扇原の2人が入り、同じチーム同士息のあった連携をみせる。



11永井

7大津 10東 17清武
3扇原 16山口

2徳永         4酒井宏
13鈴木大 5吉田

1権田





日本の立ち上がりからのハイプレスと超速攻がスペインを苦しめる

試合はやはりマタを中心としたスペインのポゼッション率が高いものの、日本はむしろ持たせながらも狙う所は狙うといった前線からの激しいプレスを掛けていく。

日本のあまりの前線4人の猛プレスにじわじわとボールを下げ、結局DFラインを中心に回さざるを得ないスペイン。

それにしても、本当にこのハイプレスが90分間持つのか、と常識では考えられないほどの前線4人の猛チャージ、そしてボールを奪ったらとにかく早めに前線に長いボールを入れ、そこにFW永井を走らせ、この永井のスピードがまた通常のイメージよりも2、3割速く、スペインDF陣もこのスピードへの対処にかなり手こずる。


結果として、ポゼッション率は確かにスペインの方が高いものの、むしろ試合のペースは圧倒的に日本のペース。

守備では敢えてスペインにボールを持たせ、少しでも隙が出来たならば前線の4人が猛チャージでこれを追い、そしていざ奪ったらスピードを全面に押してスペインDF陣を押し込む。


前半、扇原のCKから大津が決め待望の先制!!

しかし、この日本のペースはあくまでこの異常な程の前線の運動量が続くならば、という前提であり、このまま後半にいき運動量が落ちたらどうなるのだろう・・・といい加減心配になる。
現にバルセロナがしつこくボールを回し、相手の運動量と集中力が切れてきたところで一気に急所を突く作戦を得意としており、その術中にはまらないものかと、日本の思わぬペースに歓喜する裏でかなり不安になった中での34分だった。


東がまたまたスピードを活かして右サイドを鋭く突き、クロスがカットされ右CKに。
この右CKを扇原の左から放たれたボールに、大津が右足で落下地点に見事に合わせ、このシュートがゴール左へと突き刺さる!!!


GOOAAALLLLL!!!!


扇原の左足からの威力と質を兼ね備えた素晴らしい軌道のボールも良かったが、これにマークを振り切りながら完璧に捉えた大津の感覚も素晴らしかった。

この先制は非常に大きかった。

スペインは勝たなければいけないはずの初戦で、まさかの先制を喰らい明らかにリズムを大きく崩し、もはや得意のポゼッションすらもままならず、ボールを回しはすれども何を狙いに回しているのかももはや定まらない。



永井の突破を止めた一発レッドでスペイン10人に

結局動揺するスペインの隙を突く形で日本の前線はますますスペインのボールに食らいつき、38分にも清武が相手バックパスを奪って1対1からのシュートを放ち、これはわずかに右へ。

そして41分、またしても日本は前線での連動したプレスでスペインのバックパスを誘うと、このボールを受けたMF5イニゴから永井が奪ってそのまま突破に。
永井のスピードに振り切られそうになったイニゴがペナルティ直前で後方から永井を倒してしまい、このファールにはなんと一発レッドが下される。

まさかの先制を奪われ、更に10人になるという、まさにスペインにとってあり得ない展開。

私はもうこの瞬間に勝利を7割は確信。
そして後半、時間を追うごとにその確信はどんどん8割、9割へと上がっていく事となる。




後半、スペインの反撃もしのぎ切り大金星!!”グラスゴーの奇跡”

後半に入り、足を痛めていた殊勲の大津に代えて斉藤学を入れ、1人多い日本がどことなく余裕の試合運びとなり、スペインの必死の反撃を止めると永井や清武らが次々と鋭いカウンターを仕掛け決定的な追加点を狙いにいく。

しかしスペインも10人とは感じさせない能力の高さを見せ始め、特に次々と交代でリズムを作っていくと徐々にシュートシーンを作りはじめ、なかなか追加点を獲れない日本に対して執念を見せる。

だが、ここはGK権田の好セーブもあり、結局は守り切る形で終了のホイッスルを迎え1−0での大金星となる。


そして、先にホンジュラスとモロッコが引き分けて勝ち点を分け合っている事もあって、この時点でほぼ日本の予選リーグ突破は確実となった。


優勝候補相手のスペインにまさかの大金星、まさにこの試合は後に”グラスゴーの奇跡”と語り継がれるであろう、記念すべき戦いとなった。


特に海外メディアからも、清武や大津、東らの日本の前線に対し、”彼らはまるでNINJA”と評され、なぜ90分間、あれだけのスピードとスタミナが続くのかと賞賛を受けた事が印象的だった。

まさに関塚采配ズバリであり、日本の思わぬ前線からのスピードとスタミナが精密機械の王者スペインの歯車を狂わせる事に大成功した。







2戦目、モロッコ戦も激しい展開に

続く2戦目は7月29日ニューカッスルでのモロッコ戦。

スペイン戦で負傷してしまった右サイドバックの酒井宏樹はしばらく出場が厳しくなり、代わって酒井高徳(ごうとく)が入る。
同じくスペイン戦で後半に負傷し途中退場していたFW大津は幸いにも後にひびく怪我ではなかった様子で、この試合でも出場。



ホンジュラスとの1戦目を引き分けてしまい、そして日本がまさかのスペインからの勝ち点3を得ているため、必然的にこの日本戦で勝つしかないモロッコは、立ち上がりから激しくボールを奪い、そしてモロッコのペースで試合は進められ、次々と日本ゴールに襲いかかる。

6分にはボールを奪われたカウンターからFW9アムラバドがGK権田と1対1になりかけるが、日本の必死の守りと権田が挟みこむ形でどうにかセーブ。
17分にも右CKから、ファーでヘディングされ、いったんはじき返すも更に押し込まれて、守備陣が身体を張ってかろうじてブロック。
しかも高徳の腕に当たっているような・・・まあこの辺は不可抗力でもあり、そうはPKはとられない。


本当に苦しい展開となったが、日本も清武らがカウンターの速攻からチャンスを作り、特に前半41分の右CKでは、扇原のキックからDF鈴木大輔がヘディングを放ち、ゴール右に押し込むも、GKがキャッチし、これがゴールラインを割ったのではと見えたが、判定的にはギリギリセーフ。


終盤、永井のまさかの加速力から決勝点のループ!!

前半守りきった形の日本は後半に入り徐々に持ち前の連動した前線からの守備が機能しはじめ、18分にはペナルティ手前を右から左にスライドしながらMF17清武が左足を振り抜いたミドルシュートは、惜しくもバーの左上を叩きゴールならず。

24分には大津がドリブルで中央を切れ込んでの強烈なシュートもGKアムシフのファインセーブに阻まれる。


そして後半38分だった。
相手の縦パスを守備陣がはじき返したセカンドボールをセンターサークル自陣で受けた清武が、素早く前線に大きな縦パスを入れると、これにまさかの加速力で追いついたFW永井が、前に出てきたGKアムシフよりも更に早くペナルティ手前左からダイレクトに右足アウトで蹴り上げ、これが見事なループシュートとなって無人のゴールへ!!


GOOAAALLLLL!!!!


永井の世界を驚かすスピードが、まさかの決勝点を呼んだ。

結局この1点が虎の子の1点となって、1戦目に続き1−0での完封勝利。

この2連勝によって日本の予選リーグ突破は決まった。




反則ブラジルとの戦いを避けるためにも1位通過を賭けたホンジュラス戦

既に予選リーグ突破を決めた日本だったが、実はまだまだ戦いは終わってはいなかった。

なんとあろうことかスペインが2連敗という形で、日本同様スペインから勝ち点3を奪ったホンジュラスは、日本との3戦目で引き分けなら予選突破、そして勝つと日本を逆転し1位通過となる。

つまり日本は既に予選突破は決めているものの、この試合に負けると2位での通過となる。


この1位通過か2位通過かが、実は大きな天国と地獄の分かれ目。

トーナメント本戦で対戦する相手がおおかた見えてきている中で、2位通過だとスペインが沈没した今、大本命となっているブラジルといきなり対戦する事となる。

このブラジルはオーバーエイジ枠に過去Jリーグで大暴れしたFWフッキ(ポルト)や、DFチアゴ・シウバ(ミラン)、DFマルセロ(レアル・マドリー)と、本当に反則なメンバーを入れ、更にまだまだ若いため普通にオリンピックに出られるサントスのFWネイマールがいる。


絶対やりたくない・・・しかもトーナメント1戦目などで・・・


本来なら日本にとっては消化試合気味になる試合であるはずだが、絶対に負ける事だけは許されない戦いとなった。




先発5人を入れ替える日本

そういった、絶対負けられない背景を背負った3戦目ホンジュラス戦は8月1日コベントリーで行われた。

日本は負けられない戦いではあるものの、やはりかなりの連戦となるため主力をある程度は休ませる必要もあり、FW永井、MF清武、MF東、MF扇原、DF徳永の5名をベンチに温存。
酒井宏樹も負傷をまだ癒す期間。


代わって出場のFW杉本、FW斎藤学、MF宇佐美、MF村松、DF山村らも、この本戦前の段階では本来レギュラーを張っているべきと評された面子ばかり。

その控えメンバーの奮起が期待された試合だったが、しかしこの大会での日本の最大の武器である前線からの連動した守備という点では、杉本や斎藤学、そして宇佐美はなかなか機能せず、ホンジュラスのペースで試合が進められる。


特に前半39分にはFW11ベントソンがゴール前右で巧みなトラップで吉田もかわし、右足でゴール左を狙う決定的なシュートを放つも、GK権田が右手一本でどうにかセーブ。

41分にもペナルティ手前中央での絶好のFKを与えてしまい、DF3フィゲロアの強烈な左足での低い弾道のシュートは、更にホンジュラス選手にも当たって向きが変わり、非常にとりにくいゴール右へのシュートとなってしまうも、GK権田が渾身のセーブでこれに反応。


この2回のビッグセーブは本当に日本を救った。




どうにか完封し日本1位通過決定!!

前半を抑えた日本に対しホンジュラスの攻勢も前半ほどには激しさも収まってきた中、日本は清武らを途中投入することで本来の攻撃のリズムが出始め、後半36分の永井の左サイドからのFKは相手GKがかろうじてクリアし、38分には清武から永井へのホットラインからのゴール左での永井のシュートも相手GKがファインセーブで止める。


こうして日本が本来の強さを見せ始めるや、終盤になるとホンジュラスもとにかく守りきり、引き分けに持ち込む事を第一となり、元々引き分けに持っていきたかった日本との思惑が合致し、最後は時間が無事過ぎる事を互いに祈るような感じでタイムアップ。


こうして日本は0−0で狙いどおり引き分けとなり、なんと予選リーグ3戦を完封で2勝1分とする堂々たる戦績で1位通過を果たした。


このいずれも厳しい試合の中で完封で守りきった守備の要であるDF吉田麻也の評価も海外から急上昇し、これを執筆している8月下旬現在も移籍の話題が連日告げられている。




いよいよ44年ぶりのメダル獲得に向け、トーナメント本戦出場をつかみ取った日本の次のステップでの戦いがはじまる・・・





〜パート2へ続く〜







(2012.8.25UP)






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