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平成25年度 第95回全国高校野球選手権大会
 前橋育英(群馬)野球部
 甲子園初出場で初の優勝!!

〜まさかのサッカー部を追い越しての、県勢2回目の全国制覇〜


横棒



前橋育英が野球での偉業達成!!その軌跡

まさかだった。

私にとって前橋育英とは完全に群馬代表のサッカーチームそのものだった。
永遠の師と仰ぐ山口素弘をはじめ、松田直樹、細貝萌、青木剛、青木拓矢、そして松下裕樹をはじめとしたザスパの選手たち・・・いったい何人の優れたJリーガーや日本代表を輩出してきたことか。

そのサッカー部が過去4回準決勝に進出し、そしてことごとく敗れてきた。

前橋育英にとって、決勝の舞台まで進む事は悲願であり、毎年正月の時期がくると私の心は常に戦闘態勢に入った。

しかし、まさかこの夏、前橋育英は野球部という別の形で全国に立った。



そして平成25年8月22日。

前橋育英”野球部”はとてつもない快挙を成し遂げてしまった。


全国の誰もが予想しえなかったこの偉業の軌跡を、このページに簡単にまとめておこうと思う。

 
群馬県勢2度目となった深紅の優勝旗を手にするキャプテン荒井




1回戦 岩国商戦 1−0

サッカー部ではない前橋育英が野球で全国に。
前橋育英関係者以外の群馬県民の、いったい何人が本気で期待しただろうか。

へ〜、育英がまさか野球で全国ね〜

99%の県民はおそらく私と同じ感情しか抱かなかっただろう。

そして育英は1回戦、岩国商に1−0で競り勝つ。

ほ〜よくやったじゃないか。

でも、まあ最近は県勢はだいたい1回戦は勝つよな〜

正直、自分としてはそんな軽い気持ちしか抱かなかった。


しかし、今思えば、この試合で2年生エース高橋光成(こうな)が三回一死から9者連続三振を含む13三振を奪い完封を成し遂げており、これが決して偶然では無い実力だったわけだ。



2回戦 樟南戦 1−0


そんな、まだまだ甲子園に対しその程度の興味しかなかった中、盆休みをとっていた私は8月16日金曜の樟南戦を偶然に近い形で妻の実家で観戦する。

もうすっかりと社会人以降からはサッカーばかり観てきている私だが、学生時代はずっとオリックスブレーブスを追っていた端くれとして、野球ももちろん好きであり、そして確かに期待していない前橋育英とはいえども群馬代表である限りは応援したいものだ。


そして試合を観ている中・・・

おお!!こんなに育英の守備はいいのか!!!
私はカルチャーショックを受けるように、画面にクギ付けになった。


特にキャプテンサード荒井の守備力には脱帽だった。
あの強烈な当たりをあの深い位置で獲って、そしてあの送球???

相当に鍛え上げられている事はワンプレーを観ただけでハッキリわかった。

そういえば、上毛新聞には2年生エース高橋の他に、荒井監督とキャプテン荒井の親子鷹の事が出ていたな・・・


試合はよく鍛え上げられた守備陣をバックに、この日も高橋が好投し、要所要所をよく抑え、そんな守備でリズムを掴む中で5回に5番キャッチャー小川のヒットから、8番センター田村の当りが相手のエラーを誘い、小川が帰ってきた1点を守りきる形で、2戦連続1−0という渋い試合を制する。

結局のところ、粘り強く、勝負所をことごとく守り抜いた育英に対し、樟南は我慢比べに負ける形のエラーでの失点と、まさに守備力、チーム力で明暗を分けた。

全く期待していなかった前橋育英”野球部”がまさかの3回戦進出。


それまで全く興味が無かった前橋育英野球部に対し、この2回戦で俄然興味が沸いた。



ここで、このチームのレギュラー陣形を記録のために載せておく↓

センター工藤
レフト田村        ライト板垣

ショート土谷 セカンド高橋知

サード荒井 ピッチャー高橋光 ファースト楠

キャッチャー小川



3回戦 横浜戦 7−1

そして1日置いての8月18日(日)3回戦、横浜戦。

確かに前橋育英は良いチームだが、さすがにあの横浜か〜

名前負けも甚だしい。

まあ期待はしなかったが、とにかく最後まで育英の野球を見届けよう、と今度は私の実家での観戦となった。

・・・だが、育英は相手の左のエース伊藤相手に、スクイズを交えるなど、しぶとく毎回のように点を積み重ね、そして先制したことで落ち着きが生まれていき、それは持ち前の守備力がより一層引き締まる事となり、それに対し横浜の打線はあきらかに動揺と慌てぶりが目に見え、点差は開く一方。

結局、横浜の得点は2回裏のエラー絡みでのラッキーな出塁から、ゴロでのこれまたラッキーなヒットが続いた結果の1点のみで終わり、エース高橋は今大会初めて失点するものの、自責点は未だにゼロのままとなった。


こうして、まさかの7−1の快勝。

1−0で勝ち上がってきた守備のチームが、4回表の1番センター工藤、そしてこの日打撃の調子が良いからと2番に打順を上げていたレフト田村の二者連続のアベックホームランなどで、今大会初の大勝を、あの横浜相手に飾った。



やはり鍛え上げられた守備力、チーム力に裏付けされたチームは強い。

そしてあの2年生エース高橋光成。

あの3ボールから、外角低めにきっちり強気に決めていく、あの強さは何なのか。
この守備力に、あの2年生エースの、低めのコントロールと落ちる球。


このチームの強さはもしかして本物なんじゃないか、未だに”前橋育英”という名の”野球部”が甲子園で勝ち上がっている現実に違和感がある中、しかしその思いが次第に確信へと変わっていった。



準々決勝 常総学院戦 3−2

特に圧巻だったのは、翌8月19日月曜の準々決勝の常総戦だった。

この試合は残念ながら盆休みも明けてしまい、仕事に追われる中で観戦は出来ず、気にはなっていたものの、帰ってきてから結果を知る。


この日育英は、右ひじに張りがあるというエース高橋を温存し、これまた2年生の喜多川を先発に送る。

そして先制されてしまうものの、5回までを2失点で粘ると、リリーフした高橋がその後をピシャリと締め、そして高橋自ら9回の裏に3塁打を放ち土壇場で同点に追いつき、そして延長10回でサヨナラ。

あの常総戦、相手のエース飯田が足をつらせ9回を投げられなかった事が結果的に全てだったが、かたや育英は高橋をリリーフに温存できた事がこの勝利につながり、まさに両エースの使い方に明暗が分かれた。


ついに、初の全国の舞台で、あっという間にサッカー部に並ぶベスト4となった育英野球部。

もはやこうなったら、最後まで前橋育英の野球をやり抜くだけだ。

結果は後から付いてくる。
ノーマーク校ゆえの、失うモノの無い強さが、同じ前橋育英という名でも、全国常連のサッカー部とは違う野球部には確かにあった。



準決勝 日大山形戦 4−1

日大山形戦は、初回の1アウト満塁のピンチを持ち前の守備力でダブルプレーで防いだことが全てで、あとはテンポよく守り、1回裏からテンポよく得点を重ね、相手には6回表に犠牲フライで与えた1点だけに抑え、横浜戦に似た4−1での快勝。

もはやチーム力という点では圧倒的な開きを感じたし、3年生達の好守備に支えらえた2年生エース高橋光成は、なんと5試合自責点ゼロという、驚異の数字を残した。

こうして誰もが予想し得なかった、サッカー部をあっという間に追い抜いての悲願の決勝進出を、甲子園初出場の野球部が成し遂げてしまった。





決勝 延岡学園戦 4−3

決勝も何も関係ない。あとはもう、自分たちの野球をやるしかない。

相手もまだ春夏で優勝の無い宮崎県の代表、延岡学園。
まさに、互いにノーマーク校同士の決勝戦。

試合中もお互い最後の試合を楽しむように(そして決勝という重圧をどうにか取り払うため)笑顔が見え、あくまで甲子園の舞台を楽しんで、そして共に最後の勝利を目指した。

4回裏、育英の守備に今大会初めてと言える綻びが見え、絶対的なチームの象徴であったサード・キャプテン荒井にエラーが出ての2失点。

ここまで守りの堅さが第一だった前橋育英にとって、このエラー絡みの失点はチームの根幹に関わる最大のピンチとなった。


まさかの連続失点に、完全に球威を失う2年生エース高橋光成。

普通ならばここで大崩れするのが当然だが、だがその後の2アウトながら満塁のピンチに、ライト前ヒットから3塁ランナーに続き、2塁ランナーが4点を目を狙ってきたところを、ライト板垣の好送球とキャッチャー小川のブロックによって3アウトとし、まだまだ入る気配だった追加点を1失点で抑える

こうして3点リードという苦しい展開ながら、最後の最後のところで諦めない野球はまだ垣間見せた。


エラーを好守備で抑えた育英に対し、エラーで自滅する延岡学園

しかし、それでもエラー絡みの3点という大量失点・・・

その失点直後の、重要な、運命のイニングとなった5回表、その口火を切ったのは、再び8番に打順を戻していたレフト田村だった。
なんとこの回の先頭打者にして、今大会2本目となるソロホームランを決め、育英ナインは一気に活気づいた。
こうして、一気に波に乗る中、ファースト楠の意表を突くセーフティーバントをピッチャー横瀬が取り損ね出塁。
更に打順は1番センター工藤に戻って、セカンドへの当りが幸運なイレギュラーとなって、相手のミスを誘って楠は一気に3塁へ。

ここで相手はエース横瀬を早めにおろし、2番手の井出を投入。
延岡学園はこれまでも3人のピッチャーを使って勝ち上がってきたリリーフ力が武器のチームだった。

しかしその2番手井出に対し、ノーアウトで1塁3塁だったため、いきなり前橋育英らしい揺さぶりを仕掛け、2番セカンド高橋知也が見事にスクイズを決め追加点。


延岡学園は2番手ピッチャーを送りながらも、2つ続いてしまったエラー絡みでリードをあっという間に1点差まで詰め寄られる。

サードキャプテン荒井のエラー絡みの失点を好守備で追加点を抑えた育英に対し、延岡学園はエラーが更に焦りからエラーを誘うという、高校野球に非常に良く陥りがちな罠にはまってしまった。



そして2アウトとなり、この2点でこの回はとりあえず終わりか、と思われたところで、2年生エース高橋光成を支える女房役、キャッチャー小川がまだまだ諦めない気迫からの、ライトライナーの見事な同点打がこの試合を決めた。


「光成(こうな)、これでいけるぞ。」


キャッチャー小川のバットでの後輩へのメッセージはしっかりと光成に届き、光成はこの先輩の一打で「自分は何をやっていたのだろう」と目を覚まし、4回で完全に消えかけていた球威がその後戻り、9回まで好投を続ける。



立ちはだかる最後の砦・3番手奈須

4回裏に崩れかかった体勢をすぐに5回表で振り出しに戻した育英。

この5回でエース田中を下げさせ、更に2人目も下ろさせた時点で普通なら勝負ありなる所だが、さすがにこの試合は夏の全国・甲子園の決勝。
その相手、延岡学園はそうは簡単には崩れなかった。

3人目となった10番奈須は、内角を鋭く突いてくる強気の投球で育英打線を翻弄し、なかなか畳みかけられない。
正直、この奈須のピッチングは相当に賞賛すべき内容であり、ここまで延岡学園が3人の投手で勝ち抜いてきたという前評判の力は本物だった。


そんな好投を続ける奈須相手に、どうにか7回でこの日大当たりの土谷が3本目となるヒットで3塁まで進み、そして4番、キャプテン荒井は自らのエラーでの失点を挽回するように逆転打を決めるも、ノーアウトから始まったこのビッグイニングのチャンスだというのに、その後の相手の奈須も粘ってこの1失点で抑え、追加点がとれなかった時には、これは危ういと感じさせた。



1点のリードを守り抜く光成、正々堂々と立ち向かう延岡打線

だが、このわずか1点リードでも、2年生エース高橋には先輩たちが取り返した貴重なリードだった。

内野にさえ転がせさせれば、必ずアウトにする。
その絶対的な信頼関係は可視できるほどに強く、特に1塁にランナーをわざと歩かせた方がかえってダブルプレーが取りやすい、というほどに育英守備陣はノッていた。

8回にもなると、いよいよ延岡学園の攻撃にも焦りが見え始め、疲労のピークにきていた高橋光成も1回戦のような13奪三振の投球ではなく、打たせてとるピッチングに変え、初球に手を出させられ、まんまと鉄壁の育英守備陣の罠にはまっていった。

正直、延岡学園は7回からの攻撃はもっと慎重にいくべきで、ファールで粘って光成を消耗させるしたたかさを持つべきだったが、この初球にまんまと嵌ってくれる攻撃には助けられた。

しかし、あくまでこれが延岡学園なのだろう。

正々堂々、あくまで正面からぶつかっていく。だから野球は面白い。だから楽しい。負けていても、あくまで笑顔だったのは、非常に観ていてすがすがしい、素晴らしい野球だった。

今回の甲子園、花巻東でカット打法によって1人の打者が40球以上相手のエースに投げさせた作戦が賛否を呼んでいるが、確かに連戦で1人のエースが消耗せざるを得ない夏の甲子園という舞台で、明らかにその作戦をひたすら徹底させるのは私は良しとは思えない。

サッカーを応援しはじめ、なぜサッカーを応援するか、それはサッカーというスポーツが”美しい”と表現できる瞬間があるから、という事が根底にあると思うが、こんな消耗戦が美しいとはとても思えない。

要はつまらない。
面白さのかけらもない。
連戦で疲労しきっている相手のエースに、果たしてそんな作戦をとる事が、本当にフェアプレー、スポーツ精神にのっとっているのか、正々堂々と胸を張って言えるのか、真意はそこにあると思う。


まあ賛否はあるだろうが、あくまで現在サッカーに比重を置く、元野球ファンからすればそう思う。

そして現にこの決勝の舞台に立った2チームは、あくまでも自分たちの野球を貫き、それをぶつけ合う、非常にすがすがしい、観ていて面白いチームであった事が、この素晴らしい決勝の舞台を作ってくれた。



全国の頂点で鳴り響く、県都・前橋の名

そしてわずか1点だけのリードのまま、運命の最終回となる9回裏。

先頭打者からデッドボールで歩かせてしまい、ノーアウト1、2塁と最後にきてピンチを迎えるも、キャッチャー小川のファインプレーによるフライの捕球などでツーアウトをとる。

そして最後に迎えたバッターは、ここまで好リリーフを遂げてきた延岡学園、最後の砦・奈須。
この奈須に対し、最後の力を振り絞るように、最後にきて141km/hのストレートで空振りをとるなど、ツーストライクに追い込むと、最後は外角に逃げていくようなフォークボールで三振にとり、この瞬間、なんと全国初出場にして、初の優勝、全国制覇を決める。


こうして、14年前の、あの桐生第一の正田樹(日ハム→現・ヤクルト)が左腕一本で勝ち取った深紅の優勝旗が、再び群馬に持ち帰られる事となった。



試合後、前橋育英の、最後の校歌が甲子園に流れる。



あ〜あ、前橋、育英〜 我らが母校 〜




この瞬間、私の愛して止まない故郷にして県都・前橋の名が全国に鳴り響く事となった。


桐生の時は、本当に桐生が群馬だと知っている人が全国で何人いるんだろうな、一応松田直樹の故郷で、桐生一は女優・篠原涼子の母校なんだけどな、と思ったものだが、やはり県都・前橋の名を、この最高の舞台で聞く事は感慨深い。


実は、5回の途中までしか職場の昼休みでは観戦できず、試合の後半からは夜に帰宅してから先ほどまで録画で見ていたわけだが、家族が寝静まる暗いリビングの中で、この鳴り響く前橋の名を聞いた瞬間、私は1人思わず目に泪を浮かべた。


更に素晴らしい事は、このチームがあくまで”純県産”のチームであること。

エース高橋光成をはじめ、中学からの直接の先輩にあたり、光成が育英に入ったきっかけとの話もあるセカンド高橋知也は沼田出身だし、その他下仁田、藤岡、そしてキャプテンサード荒井の前橋など、レギュラーは全員県内出身。

正直、近年の前橋育英サッカー部は、県内出身が数えるほどしかいないほど、多国籍化(他県化)しているが、野球部は生粋の上州っ子達によって形成され、そしてそれゆえのチーム力だった。



親友Mよ、観ていてくれたか

・・・今大会は確かにスカウト陣からすると不作の年であることは間違いないだろう。
結局優勝を決めたエース高橋光成はまだ2年だし、他にも注目されるエース達も皆2年、その2年生に負けた3年たちの評価はそこまで高くはならないだろう。
つまりは、今大会、絶対的な化け物級のエースはいなかった。
だからこそ、前橋育英のようなチーム力がモノを言った。

特にキャプテン荒井が象徴的だと思う。

どうしても監督が父親なわけで、下手な実力ではそのおかげでレギュラーを取れているとそしりを受けてもおかしくない。

その事を十分にわかっているからこそ、荒井親子は相当に、日常から鍛えてきたと思う。
だからあのサードでの守備力があり、そして打率は決して高くはないものの、勝負どころで点を決めてきた。
おそらくチームの誰もが認める一番の努力家。
だからこそキャプテンなのだろう。

決勝戦、そのチームの象徴たるキャプテンの今大会初のエラーがらみの失点があっても、その信頼関係は崩れる事無く、チーム全体でカバーしあった。



素晴らしい優勝だった。

これぞ甲子園。

高校野球。

今は亡き親友Mは、野球もサッカーも好きながら、この世で一番面白いスポーツは間違いなく”高校野球”だと語った。

まさにそうだ。

この1戦1戦が、球児たちの貴重な、一生の人生の思い出であり、そのワンプレーワンプレーに意味がある。

そしてその最高の舞台で、まさにチーム一丸となって2年生エースを盛り立て、ついには快挙を成し遂げた。

Mもこの優勝を誰よりも喜んでいる事だろう。

まさかサッカーより先に野球で、2回目の優勝旗を群馬に持ち帰るとは・・・

前橋育英野球部、最高の優勝をありがとう




 
優勝を決めた三振をとった瞬間、マウンド上で抱き付き合う2年生エース高橋光成と女房役のキャッチャー小川に駆け寄るチームメイト達












(13.8.29UP)






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