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全国への切符を賭けた群馬県大会決勝
今年もいよいよ全国高校サッカー選手権の季節がやってくる。
一昨年の鈴木徳真、渡辺凌磨を擁した前橋育英は、群馬県勢の悲願だった準決勝突破をついに成し遂げ、惜しくも決勝の延長戦で散り、昨年のエース”メッシ”横澤らを擁した前橋育英はこれまた惜しくも準々決勝で敗れベスト8に終わったが、しかし近年は前橋育英を中心に、群馬県勢が全国の雄となっている事は事実。
その全国への切符を賭けた戦い、群馬県大会決勝が今年も開かれる。
群馬県の代表ということは、全国に行っても常に優勝候補に挙げられることを意味する。
そして決勝に上がったのは一昨年と同じく、前橋育英と前橋商業の、共に県都前橋の名を冠するチーム同士のいわゆる伝統の”群馬クラシコ”。
否が応でも熱い戦いに期待がかかる。
キャプテン大塚、FW馬場不在の2年生主体の前橋育英
自分としては、昨年も全国ベスト8を経験しているキャプテンMF8大塚や、昨年の全国大会では2戦連続で途中出場ながら得点を決めてみせた182cmと身長もあるFW17馬場を観たかったところだが、大塚はまだ怪我の影響かベンチスタートとなり、馬場はベンチにも入れない。
しかし、前橋育英伝統の攻守の主軸たるボランチには、準決勝の延長で豪快なミドルシュートを突き刺したMF長澤が入り、大塚の穴を埋められるかが鍵となる。
また、極力な攻撃参加が持ち味の左サイドバック渡邊泰基や右サイドバックの後藤田、センターバック角田、松田陸らの最終ライン4人に、10番を背負う飯島陸、レフティー田部井涼と田部井悠の双子兄弟、MF塩澤など、2年生の活躍がいつになく多いのも特徴か。
24人見(ひとみ)
10飯島陸
9高沢 8田部井涼
14塩澤 6長澤
15渡邊泰基 19後藤田
3角田 5松田陸
1月田
堅守速攻の前橋商業
準決勝で決勝点を決めたMF10金枝(かねえだ)が正確なプレースキックも持っており、チームの中心。
また、右サイドバックのキャプテンDF5木村のアシスト率の高いクロスの精度も見もの。
堅守速攻が武器という前橋商業、いかに育英の牙城を突き崩し、12年間遠ざかっている全国高校サッカー選手権への出場権を手に入れ、古豪復活となるか。
11藤生
7星野
10金枝 9大塚
16高橋直希 8信沢
6若林 5木村
4李守文 2風間
1田村健太郎
劣勢の中、前橋商業の先制!!!
風が強い中でのキックオフとなり、最初に風上に立つのは前橋商業。
しかし、やはりボールを支配するのは互いのスタイルを反映し、前橋育英がポゼッションを取りながら、前橋商業はまずは育英の攻撃をいなしながら、攻撃に転ずる隙を伺う。
14分、育英は左サイドからDF15渡邉の送ったクロスに、ゴール前でMF10飯島陸がテクニックを活かしてしっかりとキープし、右からMF8田部井のシュートは惜しくもバーの上。
18分にも育英、左からの縦パスから、FW24人見が高さを活かしてしっかりとゴール前に落とし、飯島らが狙いにいくも、先にGK田村に抑えられる。
この人見は見るからにフィジカルと高さがある選手で、前線のターゲットとしては申し分ない。
しかし、23分、その押し込まれていた前橋商業、ボールがはじかれて、前線にそのままパスが送られたところに、FW7星野が見事に育英のDFラインのギャップを突き、抜け出すと、ダイレクトにつま先でのシュートを送り、これが見事にゴールに突き刺さる!!!
GOOAAALLLLL!!!!
おお!!!
まさか、劣勢だった前商が先に点を獲るとは!!!
これは本当に予想外だったが、前商としては風上の内に先制を獲れ、これで俄然試合も面白くなる。
前半は前商が1点リードで折り返し
風下で、前半は耐えて後半勝負としたかった育英としては、これは手痛い先制となったが、同点に追いつくべく、更に攻勢を強め、特にFW10飯島などにボールが収まると、高いテクニックから起点となり、育英のチャンスへとつながる。
38分には左サイドからDF15渡邉の良いクロスが入り、ゴール前でFW10飯島のヘディングシュートは惜しくもバーの上。
高校サッカーは前後半40分ずつであり、もう前半は終わりとなり、前商が1点リードで折り返しとなる。
後半は風上から攻める育英の相当の攻撃が予想されるが、前商の堅守がどこまで耐えられるか、そして速攻などからいかに追加点を奪えるかだろう。
また育英としても、この程度のビハインドを跳ね返せないようでは、とても次の目標である全国制覇までは程遠いわけで、このビハインドを跳ね返す得点を奪う必要がある。
後半からキャプテン大塚投入の育英
まさかの1点ビハインドとなった育英は、後半開始頭から、なんとFW24人見に代えて、温存していたキャプテンMF7大塚を投入する。
準決勝で痛めた足首の状態が気にかかるところだろうが、そうとも言っていられないという、絶対に勝つという意思の表れか。
やはり育英のサッカーは伝統のボランチがまずありきであり、ここぞというところでの大塚は必須ということか。
これでMF14塩澤がトップ下に上がり、4−2−3−1とする育英の布陣。
後半5分、早速そのMF7大塚が、右足アウトにかけていったサイドチェンジが鋭く左サイドのMF9高沢へと渡り、高沢の突破からのクロスからゴール前での飯島の詰めはわずかに合わず。
それにしても大塚、その右足からのキックの精度はやはり凄いものがある。
なるほど、負けているというのに、FWを1人削ってでも後半頭から山田監督が投入するわけだ・・・
7分にもその大塚が、セカンドボールをすかさずダイレクトで縦パスを入れ、飯島があと一歩まで詰め寄る。
前半ではまったく考えられなかったプレーの数々が大塚にはある。
9分にはMF9高沢が倒され左サイドでのFKを得ると、これには右の高沢、左の田部井と並ぶ。
結果、高沢のキックはやや当たり損ねか低いボールとなりブロックされる。
10分、MF8田部井の左足からの精度の高いクロスに、ファーでMF9高沢のダイビングヘッドは惜しくもバーの右上。
飯島陸の同点で振り出しに!!
明らかにピンチの連続となっている前商も11分、選手交代でMF9大塚に代えて、MF14櫻井が投入される。
12分もMF9高沢が密集した前商の堅守の中を、高いドリブルのテクニックで抜けていき、シュートまで狙う。
さらに13分も、左サイド渡邉の攻め上がりからボールを受けた高沢がペナルティ内左で良いトラップからのシュートを放つも、前商DF陣もここはしっかりブロック。
この高沢はなかなかのアタッカーだ。
しかし、この後は育英も縦パスを入れても強風で流され、すぐに相手GKにボールを渡してしまうような場面も目立ちはじめる。
20分、ここで育英は2人目の交代、MF14塩澤に代えて、MF25田部井悠が投入される。
MF8田部井はレフティーの弟で、この田部井悠は右利きの双子の兄とのこと。
しかし、正直前商の守備が相当に堅く、時間も経過していく中で、このまま1−0で前商が勝つのでは・・・といった雰囲気が漂ってきた23分だった。
ピッチ中央でMF6長澤がガッチリとクサビのパスをキープして起点となると、左サイドからDF15渡邉の攻撃参加から、ペナルティ左でパスを受けたFW10飯島陸が、マークに挟まれながらも高いテクニックでそこをすり抜け、そしてGKを見ながら左足でやや浮き球のシュートを送り、見事にゴールに突き刺す!!
GOOAAALLLLL!!!!
おおおおお!!
凄いな!?このゴールは!!!??
飯島のあまりに高いテクニックからの同点ゴールは本当に圧巻だった。
なるほど、これが2年生ながら、前橋育英の10番を背負うという意味か・・・
しかもFW人見を下げて、この小柄なFWに1トップを任せるという山田監督の信頼が厚いのも頷ける。
これで振り出しに戻った中、どちらに試合が転がるか全くわからなくなる。
風を読んだ田部井悠の折り返しから育英逆転弾!!
これでイケイケとなった育英、28分には、途中投入されたMF25田部井悠のロングシュートが強烈な風上の風に乗って左枠を捉え、GK田村もこれは外にはじき出すのがやっと。
これで得た左CK、MF9高沢のキックが、風に流されファーのゴールラインを割ろうかというところを、MF25田部井悠がヘディングでギリギリ折り返し、ゴール前中央でDF15渡邉が頭で押し込み、逆転弾!!
GOOAAALLLLL!!!!
まさに勢いに乗ってというか、先ほどの風を読んだロングシュートと同じく、途中出場の田部井悠が機転を利かせ、風で流れる事を想定した折り返しで逆転を演出した。
ついに逆転されてしまった前商は更に交代策に出て、MF16高橋直希に代えてMF15大橋を投入。
全国選手権へは3年連続、20回目の前橋育英
しかし、やはりこの風下の中、逆転された前商にはほとんど打つ手が無く、ほぼノーチャンスで時間が経過していく。
育英は39分、いよいよ守備固めとしてMF8田部井涼に代えて、DF2小山を投入し逃げ切りモードに。
試合は2分間のアディショナルタイムへ。
こうして、両チームとも風上で得点を奪い合う形で、結果的には地力に勝る形で前橋育英が3年連続、20回目の全国出場を手に入れた。
それにしても、後半から投入されたキャプテン大塚の存在は相当に大きかった。
特に、その右足から放たれるキックの精度が非常に高いし、そして攻守のバランスの取り方も絶妙だ。
やはり全国ベスト8を経験した力は大きい。
そして、値千金の同点弾を決めた2年生エースの飯島陸の高いテクニックも凄かった。
あの育英の中において、3年生を押しのけて10番を付けるというのは並大抵のものではない。
そして左サイドを蹂躙した高沢や、高い精度の左足を見せた田部井涼、逆転弾のお膳立てをした田部井悠の田部井兄弟、大塚と共に中盤で高いフィジカルも含めて存在感をみせた長澤など、今年も楽しみなメンバーが揃っている。
これに本来のエースストライカーFW馬場が加わったなら、どんなサッカーを魅せてくれるのだろうか。
今から年末年始が楽しみだ。
また、育英をあと寸前まで追いつめた前商も、いよいよ古豪復活を告げる、素晴らしい戦いぶりだった。
あの伝統の守備力を磨き、そして攻撃でも武器を身に付ければ、来年、再来年はいよいよ育英のタイガー集団ではなく、前商のゼブラ集団が全国を席巻する日も近いだろう。
群馬クラシコの名に相応しい好ゲームと、全国での活躍に期待のかかる群馬大会決勝となった。
(16.11.7UP)
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