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昨年全国ベスト8を果たした桐生一に王者育英が挑む
昨年初の全国選手権への出場を決め、そして初登場ながら全国ベスト8までの快進撃を果たした桐生一だったが、今年はまた前橋育英の復権を受ける立場で群馬県決勝を戦う事となる。
昨年はキャプテン金田、左サイドの池田、新潟にいったFW武蔵といった個の力もあったものの、今年のチームで昨年のメンバーで残るのは吉森くらいであり、個の力よりも全員サッカーでパスを繋げるサッカーを標榜。
対して育英はやはり毎年の事ながら個の力に長けており、ここまでも圧倒的な強さで決勝を勝ち上がり、今年は王者の座の奪還を狙う。
かつて、群馬高校サッカー界は完全に育英と前商の2強で、必ずこの2チームが決勝まで勝ち上がってくる事が定番だったが、伊勢崎商業がこの牙城を破り、そして近年は桐生一などの新興勢力も台頭。
今年で育英と桐生一の決勝カードが3年連続となった。
ちなみに、この日はたまたま家庭的にも予定が空いたので、初めて高校サッカーを生観戦に行った。
個の力に長ける育英
この決勝まではいずれも3点差以上の大差で勝ってきた育英は、やはり個の強さが際だっているらしい。
ところで昨年も決勝にスタメンで出て本来のエース級であるFW10外山はベンチスタート。
また、昨年ボランチでスタメンだった廣瀬はトップ下、ほとんどFWとして1トップのFW小口(おぐち)と並ぶようなポジション。
ちなみに両方とも2年生であり、このチームの特徴としては2年が多いということ。
キャプテンマークはセンターバックのDF4柳沢が巻く。
20小口
15廣瀬
17上田 8永田
13佐藤祐 5小川
16高田 6廣田
3樋口 4柳沢
12蔦
パス主体の全員サッカーを掲げる桐生一
昨年全国選手権でベスト8まで進んだ桐生一だが、その昨年から残っている主力といえばトップ下の吉森くらいか。
準決勝の前橋商との接戦時も、後半半ばでのこの吉森のFKで決めたとのことで、このチームの攻撃の中心を担う。
とにかくこのチームのテーマは「つなぐ意識」。
持ち前のDFラインからのビルドアップを育英相手にもどう通用するか。
11松島奨
9松嶋龍
14浦丸 7吉森
8碓井 17田中大
6増山 2島崎
5張替 3川田
12依田
立ち上がり、風上の育英が個の力で圧す
前半、強風の吹く風上をコイントスでとった育英が立ち上がりから一方的に圧す展開。
3分、育英はペナルティ手前左寄りの絶好の位置でのFKに、蹴りにいったのは右サイドバックのDF6廣田。
直接左上を狙っていったボールは惜しくもバーの上。
その後は桐生一は右サイドからは吉森と中心としてパスを回し、左サイドは速攻といった形で攻め、育英は前線のFW20小口がまさにストロングFWとして強さを見せながら、その周辺をMF15廣瀬が積極的に動き回り桐生一DFを翻弄する展開が続く。
しかし桐生一はやはり風下ということもあって、育英の高い個人技に押されてシュートを浴びる展開が続く。
写真の左方向から北風が吹きすさぶピッチ
育英、華麗なカウンターで先制!!
20分、桐生一は右サイドからFW11松島のセンタリングからFW9松嶋に合わせたところでのクロスプレーのブロックに入ったDF4柳沢が、松嶋の執拗なマークもはね除けながら落ち着いてボールをキープし、センターサークルにいたMF15廣瀬にパス。
このパスに廣瀬は3人のマークに囲まれながらもうまくターンでかわしてから左サイドへのパス。
これにMF17上田がそのままドリブルに入り、独走態勢のままペナルティ左に入った辺りからのシュートを見事にゴール右に決める。
GOOAAALLLLL!!!!
キャプテン柳沢のカットからのキープがまず良かったし、何といっても相手の守備陣を引きつけながらキープ、ターンでかわし、パスを出した廣瀬のテクニックが活きた。
ドリブルから落ち着いて決めた上田も素晴らしかった。
桐生一、隙を突いて左サイドからの同点!!
この先制で王者育英が更に突き放しにいくかという勢いがその後も見られた25分だった。
育英の右サイドからのスローインを受けたDF4柳沢がクリアのボールを出すも桐生一の選手に当たり、ゴールライン際に転がる中で、柳沢が追うかGKが追うかと判断に一瞬迷ったか対応が遅れ、柳沢が追っていったところにFW11松島奨が力強いショルダーチャージと共にこのボールを奪い、すかさずマイナスの折り返しを入れると、これにFW9松島が詰める!!
GOOAAALLLLL!!!!
なんと、この劣勢の中で桐生一のすかさずの同点弾!!
もう育英の先制点だけでも7割はこの試合決まったかと思ったが、やはり高校サッカーは何が起こるか分からない。
育英守備陣も、DFかGKかどちらが追いにいくか、また下手にあの場面でキープすべきだったかどうか、という判断のミスもあった。
これで俄然試合も面白くなってきた。
桐生一のDFラインを狙ってボール奪取からの追加点!
28分、MF15廣瀬が右サイドからの突破から放ったミドルシュートは風にも乗って良いボールだったが、GKもナイスセーブでこれを上にはじく。
更に右CK、DF6廣田が放ったボールは、右足でのキックにもかかわらず風も計算に入れたややアウトにかけたボールでゴールに向かい、GKも意表を突かれた形だがどうにか上にはじく。
そして35分、桐生一は同点の後になかなか攻め込めない状況を打開しようと、チームのテーマであるDFラインからのビルドアップをすべく、キャプテン張替と左サイドバックの増山がどうにかボールをDFラインでキープし前線に出すタイミングを伺うも、廣瀬らの育英前線が執拗にこれをチェイシング。
苦しい体勢から渡したパスを受けたDF川田に対し、ここがチャンスとばかりに猛烈にMF13佐藤祐が仕掛け、ここの隙を突いてうまくボールを奪うと、右横にいた廣瀬がすかさずクロスを入れ、これにゴールファーに入っていったFW20小口が見事に頭で合わせる。
GOOAAALLLLL!!!!
おそらく試合前からの作戦として狙っていたのだろうが、桐生一のテーマであるDFラインからのビルドアップをキッチリと逆手に取ってこのチャンス所で育英の連動したプレスが成功した。
そして先制点に続く廣瀬の高い精度を持ったプレー、2年ながら相手を圧倒するフィジカル、そして決定力をみせたFW小口と、やはりここぞという場面での個の能力の高さが光った。
前半は2−1で折り返し
まさかの前半のうちの2得点に沸く育英は、続く38分にも桐生一のDFラインのパス回しを狙ってMF5小川が猛然とプレスをかけてパスカットし、すかさず右サイドのMF8永田へ。
永田のライン際からのマイナスの折り返しがファーに抜け、ここに先制を決めたMF17上田が詰めるだけ、という場面も、このシュートはなんとバーの上。
ここは育英としても決めておけば試合を決める得点となっただけに惜しい場面だった。
前半終了間際、どうにか再度の同点に追いつきたい桐生一はMF7吉森がカウンターのチャンスの起点となり、育英のマークを引きつけてから右前方を走ったFW9松嶋龍に渡すも、ここはブロックされる。
前半を観る限り、左サイドに入っているはずの吉森が、左のテクニック、精度を活かしてどんどんポジションをアンカーの位置であったり、トップ下の位置であったりと動きながら、正確な中長距離のパスを散らしていたのが印象的。
さすが昨年ベスト8にチームを導いた司令塔の実力を思い知ったが、しかし育英の小口、廣瀬といった個の強さはそれを更に上回った形の2−1での前半折り返しとなった。
既に見慣れた光景である育英応援席のチアガールの踊りがピッチに色を添える
いつもながら力の入った応援団だな・・・^^;)
後半、キャプテン張替を上げて攻勢に出る桐生一
後半も開始から互いに運動量多く相手のボールには執拗にプレスを仕掛け、そして奪ったら素早く前線にボールを入れていくめまぐるしい展開。
やはり全体的には球際などのところで育英の個の強さは目立ち、セカンドボールの支配率は育英が上回るものの、桐生一もしっかりと全員の連動した運動量でカバーしている印象。
10分、桐生一はようやく育英の横パスをカットしたところからボールを繋げ、左サイドから一気に加速をつけたFW11松島奨にスルーパスを送るも、これは惜しくもオフサイドの判定。
桐生一は、ここぞというところで積極的に裏を狙っていく狙いが後半は目立った。
12分、桐生一は初めての選手交代、FW9松嶋龍に代わってDF18若月を投入。
若月が最終ラインに入る事によって、キャプテンのDF5張替のポジションを上げ、同時に吉森も1.5列目に上げた様子。
14分、早速その上がった張替がボールを奪ったところから吉森を経由して右のDF2島崎がクロスを送り、ファーにMF17田中大が詰めるという惜しい場面を作り出す。
この田中もボランチだったが、先ほどの交代で左ハーフにポジションを替えた様子。
交代策で次々と攻勢に出る桐生一
18分、育英も初めての交代、MF8永田に代えてFW10外山を投入。
外山は左サイドに入る形。
22分、育英は前線で相手GKもかわすチャンスを作るも、DF18若月が良いカバーリングをみせる。
23分、桐生一はMF17田中大に代えて1年生FWのFW15斎藤雄大を投入。
40分ハーフとただでさえ時間が短い高校サッカー、残り時間も少なくなる中、いよいよ桐生一も攻撃の枚数を増やしてくる。
試合もいよいよ終盤に入り、ポジションを更に上げた吉森が積極的にボールに絡み出した27分、吉森の絶妙な縦パスに対し、DF18若月が思いきった自陣からの怒濤のオーバーラップで右サイドを突破したところからCKを掴む。
この右CK、吉森が左で蹴っていったボールはファーでキャプテン張替がジャンピングボレーで狙うも届かず。
29分、桐生一は更に交代、DF2島崎に代えてFW10佐藤稜平を投入。
30分、育英も選手交代、先制点を決めたMF17上田に代えてMF14鈴木徳真を投入。
31分、左サイドからの桐生一のクロスがこぼれたところを吉森がキープし、後ろに落としたところからDF18若月のシュートは惜しくもバーの上。
それにしても若月のポジションってどこなんだ??というくらい、積極的にチャンス時は上がってくる。
最後は育英も守備固めと時間稼ぎでタイムアップ!!
34分、桐生一の左CKを弾き出した育英はそのまま廣瀬を起点にカウンターに入り、絶妙なキープとパスで左サイドの外山にボールを渡すと、外山が左サイド深くまで攻め入ってからのファーへのクロスに、FW20小口の決定的なヘディングはわずかにバーの右!!
それにしても廣瀬の精度が本当に素晴らしい。
桐生一の吉森もさすがだだ、廣瀬も同レベル、いや、結果を出しているところではそれ以上の出来を見せる。
思えば、昨年はザスパに加入し今シーズンから早くも活躍している横山翔平らの、自分で持ち込んでシュートする場面ばかりが目立ったが、今年はこの廣瀬がいるお陰で小口らの個の強さがより一層活きる。
個の強さを結びつける司令塔・廣瀬の存在。
それが今年の育英の強さか。
36分、桐生一は右サイドからダイレクトのパスを繋げ、中央の浦丸からのパスを受けた佐藤稜平がシュート!!のところだったが、惜しくもヒットせず。
結局、この後も3分間のロスタイムもあったものの、育英も選手交代枠をこれでもかと使い、サイドでボールもキープしつつタイムアップを迎える。
2−1という好ゲームとなり、特に前半はシーソーゲームの様相も呈したが、最後は育英が手堅い試合運びで王者の座の奪還を果たした。
今年の群馬の夢は育英に託された
桐生一は吉森という個の強さを持ちつつ、チーム全体で走り、そしてカバーし合う良いチームだったが、しかし最後の失点は持ち前のパスワークを狙われた悔しい点となってしまった。
それにしても、もうすっかりと育英と互角に戦えるチームに成熟している感はあり、今後も群馬の覇権争いは激しさを増す事だろう。
それに対し、王者の座奪還となった育英。
育英の強さの秘訣は先ほども挙げたとおりMF15廣瀬の存在だと思う。
これまでの育英といえば4−4−2のオーソドックスなシステムで、MF松下の代から司令塔をボランチに頼ってきた。
よって、その司令塔役のボランチが攻撃に向かったところの裏を突かれると守備的に弱い面があり、そこがあと一歩全国でベスト4より上に突き抜けない要因と私は見ていた。
それが最近は時代の流れと共に4−2−3−1というシステムに変更し、司令塔役が1.5列目に委ねられた事で前線で起点を作りやすくなり、2列目、3列目からのビルドアップもしやすくなった。
結果的に小川や佐藤祐らの得点にも繋がった積極的なカットも出せるようになり、守備のバランスを取りながら無理をせずにボールを回せる事に繋がっている。
今年の育英はエース外山を敢えてベンチに置くほどの駒の多さも感じる。
もう何回、全国の舞台でベスト4止まりで泣いて帰ってきた事だろうか・・・
なんとか今年の育英には決勝進出、そして優勝旗を群馬に持ち帰ってきて欲しい。
この試合の後に、育英応援団からは前橋育英の大先輩である故・松田直樹のナオキコールがこだました。
そう、悲報のあった昨年は果たせなかった松田の想いを今年こそは全国に響かせる責任も背負う。
こうして今年も群馬県勢悲願の全国制覇への挑戦がはじまる。
群馬の代表として、頑張れ!育英イレブン!!!
(12.11.18UP)
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