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前商との接戦を勝ち抜いた育英と、新生・桐一の決勝戦
さて、プロのリーグ戦が終盤を迎え、天皇杯が本格化してきたこの時期、その天皇杯よりも更に後に続くのが全国高校サッカー。
若い世代がいきなりのフル代表入りを果たす事も珍しくなくなった昨今、やはりこの高校サッカーは注目に値する。
その全国高校サッカー群馬県大会決勝の今年のカードは、前橋育英と桐生第一。
例年ならば群馬県大会決勝といえば育英と前商の対戦でだいたい決まりだったが、最近は伊勢崎商業が育英、前商の牙城を破り全国に行ったり、それ以外にも現在の湘南のエース・石原を輩出した高崎経済付属なども徐々に力を付けてきており、その戦力図は変わり始めている。
今年は組み合わせの妙も重なり、前橋育英と前橋商業のいわゆる”前橋クラシコ”は準決勝で実現することとなり、その接戦を制したのが前橋育英。
そして対する反対側のブロックでは野球では有名な桐生第一がここ数年急速な強化に励んで力を付け、準決勝で高経付属を破って決勝進出となり、新顔の桐一と全国常連にして全国屈指のJリーガー輩出校・育英との決勝となった。
当然、まだ力の差は否めないと思われるが、桐一が育英の個人技をどうかわして、少ないチャンスを掴んでいくかが鍵となるだろう。
黄金の中盤擁する前橋育英
今年の前橋育英もやはり例年に違わぬタレント集団と言える。
特に豪華なのが黄金の中盤と呼ばれる中盤で、1年生の頃から活躍しているキャプテン米田弟(賢)、佐藤弟(穣)はもちろんのこと、六平(むさか)、中美もテクニック十分。
ところで昨年も2年生ながらほぼレギュラーとして活躍した六平だが、あらゆるドラマ、映画で名脇役として誰もが顔を見ればすぐにわかる俳優・六平直政(なにせ名脇役であって名前を聞いてもピンとくる人は少ないので、ネット検索してもらえればすぐにわかります)の息子であり、FC東京ユースで鍛えられてきた実力派。
積極的にゴール前まで上がりゴールを狙うキャプテン米田に対し、六平がその高いテクニックで中盤の底から試合をコントロールする。
また、FWには昨年1年生ながらレギュラーを張った2年西澤がエースとして期待がかかる。
13西澤 25皆川
20中美 10佐藤穣
7六平 14米田賢
3田中 18木村
23代田 2藤崎
1石川
エース村岡を中心とした3−5−2の桐生一
桐生一はなんといってもエースMF9村岡を司令塔に据えた3−5−2が特徴。
得点力のある村岡をあえて1列下のポジションに置く事で、相手チームの守備を困難にさせる。
また、私個人としては3−5−2というシステムに非常に注目する。
4−4−2は守備でも攻撃でも個々で打開、対応しなければいけない場面が多く、個人の技量の高いプロ、特にブラジルのようなチームには適するが、個の力よりもむしろ組織でまとまる事が重要であるアマチュアレベル、特に高校サッカーの場合は守備でも攻撃でもカバーしあうのが容易で、特に中央の守りを厚くできる3−5−2の方が適しているのでは、と以前から考えるからだ。
とにかく私個人としては桐一に対するデータがほとんど無いのでまずは試合を観ながら見極めていくしかない。
11落合 19糸井
9村岡
8菊地 17久保
14湯沢 6黒田
2蜂須賀 4藤生 5相川
1福田
序盤からやはり育英ペース
試合開始序盤はやはり個の力で勝る育英がセカンドボールなどをことごとく繋げ、ボールをポゼッションすることで試合は進み、2分、MF7六平のミドルシュートが早速のオープニングシュートとなる。
しかし桐一もただ攻撃されているだけではなく、数少ないながらもチャンスを掴む。
5分、左サイドからMF8菊地のクロスにファーサイドで飛び込んできたMF9村岡のヘディングはGK石川はじき出すも、この日最初の攻撃のチャンスをここまで持って行く精度は非常に高いものがある。
その他はだいたい桐生の攻撃ばかり、10分、MF20中美が抜き出てシュートはバーの上。
12分、中央からMF7六平が送ったスルーパスにFW13西澤がゴール前左サイドを抜き出てシュートはGK福田ファインセーブ。
18分、バイタルエリアでMF7六平が混戦の中で相手ボールをインターセプトすると、左サイドから中へ切れ込んだMF20中美のシュートは決定的だったがバーの上。
ここまでの所で六平はまさに我が師・山口素弘からはじまる、ザスパ・松下、鹿島・青木剛、レッズ・細貝、大宮・青木拓矢ら歴代から受け継がれる育英のボランチらしいゲームメイクが光る。
圧倒的な育英ペースに桐一も守備の底上げで応戦
前半半ばを過ぎても以前として育英ペースは変わらない。
23分、右サイドから中へ切れ込んだDF18木村のシュートはバーの右へ。
24分、速攻から中央MF10佐藤穣からのパスを右サイドDF18木村が受けクロスを送ると、ファーでFW13西澤のヘディングはわずかにバーの上へ。
ここまでの育英の圧倒的なペースは凄い。
選手個々の力にやはり大きな差がある。
相手の桐一はMF9村岡、MF8菊地といった個の能力で突破できる選手がスペースでボールをもった時だけチャンスができるが、それ以外はほとんど攻撃の気配がない。
ここまでのあまりの育英ペースになんとか歯止めをかけようと、桐一は26分、MF14湯沢に代えDF3深沢を投入し守備の底上げを図る。
育英、数々の決定機を外し、桐一FW糸井に先制を許す
34分、育英はMF10佐藤穣からのスルーパスに抜け出したMF14米田が中央からゴール前へ滑り込みながらシュートし、ゴール左隅に飛ぶも、GK福田が右手一本でかろうじてはじき出すファインセーブ。
育英はここまでのシーンであまりに多くの決定機を外しすぎ、ここまでの時間帯で未だ得点が奪えていないということは、ある意味桐一の作戦どおりでもあると言える。
やはりこういった個の力の差がある時に、3−5−2のシステムで中央の守りを固められれば、粘り強く守れる。
そして前半も残り5分を切った36分、桐一はMF9村岡のスルーパスに中央でFW11落合が潰れ役となり、GK石川も前に飛び出していたところでこぼれ球をFW19糸井が冷静に押し込む。
GOOAAALLLLL!!!!
これほどの圧倒的な育英ペースの前半だったというのに、やはり得点に繋げられなかったのが災いし、ついに桐一に先制点を許す事となる。
これだからサッカーとはわからない。
サッカーはいくら内容で押し込もうとも、結局はわずかな得点の数の差でのみ勝敗は決する。
前半終了間際、カウンターから右サイドMF20中美が飛び込み、GK福田を相手にファーへのパスを送ると、ゴール右隅でFW13西澤のシュートも、GK福田、なんとかシュートコースを塞いで、これをブロック。
これでも点が入らないのか、と王者育英を焦らせる決定機を最後に、前半は終わり、予想外の桐一の1点リードで折り返しとなる。
後半、ついに育英が同点に
この情けない前半の結果に山田監督から檄が飛び、気合いを入れ直し、そして王者たる自信を今一度取り戻した育英の後半の反撃が開始される。
後半3分、ハーフライン手前からの大きなサイドチェンジが入り、右サイドでMF10佐藤穣がドフリーでこれを受け、余裕を持って左のFW13西澤にパス。
そしていい加減これは決まるだろうと思われた西澤のシュートはあろう事かバーの上。
エース西澤がこの決定機を外してしまうようではサッカーにならない。
昨年は1年生ながら決勝戦で貴重な先制ゴールを挙げた西澤だが、この試合では得点のツキから見放されている。
この圧倒的な育英ペースに対し、桐一はまたもや早めの選手交代で歯止めをかけようとし、5分、FW11落合に代え、FW13五十嵐を投入。
しかし育英の勢いは止まらない。
その直後の同5分、右サイドからのDF18木村のクロスにニアでMF14米田が落とし、こぼれたところをFW25皆川が詰める。
GOOAAALLLLL!!!!
さんざんエース西澤が外した直後に、同じく2年生FWの皆川があっさりとこぼれ球を決めるとは、これもまたサッカーというものか。
とにかく、本当に待望のこの試合初の得点が育英に生まれ、試合は振り出しに。
エース西澤、ようやくの逆転ゴール
この待望の初得点で得点機逸失の呪縛から逃れた育英は、続く7分、ハーフライン手前からの縦パスにFW25皆川がヘディングで前に送り、連動して走り込んでいたFW13西澤が技ありのトラップでマークをかわして裏へボールを落とすと、そのまま独走の体制に。
GKと1対1となり、今度こそ落ち着いてゴール右に流し込む。
GOOAAALLLLL!!!!
これまでの決定機逸失が嘘だったかのような、きれいな無駄の無い攻撃が決まり、2、3分のうちにあっさりと逆転。
1点さえ入れば、2点目も入りやすくなるのがまたサッカーというものだろう。
ここまでことごとく決定機を外し、いい加減代えようかと思った、という山田監督のコメントもあったほどだったが、汚名挽回の逆転ゴールをこの流れの良い時間に決める事となる。
桐一もエース村岡の個人技で再度同点に!
もはやここまでの試合の流れを観る限りは、この育英の逆転弾で試合は決まるのではないかと思われた後半12分だった。
桐一はカウンターというよりも、クリア気味の縦パスをピッチ中央で受けたMF9村岡が、そのままDF2藤崎のマークを背に受けながらボールを前に運び、そのままの勢いでシュートすると、これが見事にゴール左隅へ。
GOOAAALLLLL!!!!
あれだけ注意していたはずの村岡に、人数が揃っていたにもかかわらず、完全に中央から強引に突破され、力で押し切られてしまった。
逆転弾で一瞬気がゆるんでいたのかもしれないが、この守備のミスは頂けない。
DF藤崎の体勢が万全でなかったのなら、その裏を他の選手がきちんとカバーに入れるようでなければ、昨年の育英にも見られた守備の不安定さはぬぐえない。
結果として、力の差がある相手に対し、2失点という失点は多すぎるし、この試合は最低でも失点1以内で抑えるべき試合だった。
群馬の中だけならその程度の甘えも許容範囲だが、あくまで全国を視野に入れなければいけない育英ならば、この2失点は許容範囲ではない。
佐藤穣の再度の逆転ゴール!
お互い2得点を取り合う、撃ち合いの様相となる中、やはり後半は中盤が間延びしてくる事もあって、その後は互いにゴール前まで攻め込む場面も増えてくる。
20分、右サイドDF18木村からの縦パスにFWが落としたボールを、MF10佐藤穣が右寄りから持ち込みシュートを放つと、DFに当たりながらゴールに。
GOOAAALLLLL!!!!
再び育英が逆転ゴールを挙げる。
やはり撃ち合いになれば、個の力で勝る育英が力ずくで得点を奪ってしまう。
前半のなかなか得点が入らない展開が嘘のような、随分と点が入る流れとなる。
こういった展開は高校サッカーには多い。
やはりプロの試合と違い、フィジカル、メンタルの差なのだろうか。
勢いがそのまま結果に直結しやすい。
桐一、アクシデントからGK交代
21分、育英は逆転ゴールの前から準備していたFW9森をFW13西澤に代えて投入。
24分、その投入されたFW9森が右サイドからペナルティ内へ抜け出ようとしたところを、GK福田が前のプレーから足を痛めながらも鋭い出足で飛び出してセーブ。
今日の福田は3失点はしたものの、何点分も育英のシュートをファインセーブで止めて、前半までの善戦を演出した。
その福田がこのプレーで足の負傷がいよいよ限界となり、GK12小野と交代。
負けている展開の中、アクシデントからのGK交代は桐一にとっては大変痛い。
26分、桐一は高校サッカー特有の4人目の交代。
MF17久保に代えてMF15真島を投入。
ハーフ40分制の高校サッカーとしては、リスクを冒してでも1点を取り返しにいかなければいけない時間帯となる。
33分、育英も2人目の交代。DF3田中に代え、DF6笛田を投入。
この笛田も、1年から活躍はしているものの、なかなかレギュラー定着までは至らず、どちらかというとスーパーサブ的な要素が大きい。
キャプテン米田のダメ押しゴールで勝負あり
34分、育英は右サイドをMF20中美が強引に突破し、ついには角度の無いところでシュートまで持って行くが、これはブロックされる。
育英の中盤は先ほどから名前の挙がる米田、六平、佐藤穣以外にもこの中美がいる。
その他にもサイドバックの木村や笛田らもそうだが、やはり育英の方が個人の強さで縦への突破に強さがある。
37分、育英は右サイドMF10佐藤穣のキープから、更に外を上がったDF18木村が先ほどの中美と同じようにマーク2人を振り切る強引な突破を仕掛け、そのままゴール右前まで切れ込む。
やむなくコースを塞ぎにきたGKの1歩手前で木村がボールを戻すと、その一歩後ろまで上がっていたMF14米田が難なくゴールに押し込む。
GOOAAALLLLL!!!!
もはやこの時間帯としては決定的といえるダメ押しの4点目が決まる。
それにしても米田はボランチの位置から何度もゴール前まで攻め上がりゴールを貪欲に狙うが、凄い運動量だ。
MF7六平がゲームメイクをし、MF14米田が積極的に前に上がるという、縦の関係の2ボランチが今の育英の戦術そのものと言える。
撃ち合いの末、育英の力押しで勝利
ロスタイムに入り1分、育英は最後の交代、FW25皆川に代え、FW11清野を投入。
これはもはや時間稼ぎ。
こうして前半の0−1が嘘のような、後半の育英の怒濤の逆転劇で4−2で試合終了となった。
やはりどうしても両チームの個々の力に差がある。
桐一は3−5−2のシステムで中央の守りを厚くし、よく粘りながらMF9村岡、MF8菊地といった個人で打開できるストロングポイントからの一発を狙うというやり方で善戦はしたが、それでも育英にはそれを上回る、力でねじ伏せるだけの力量があった。
MF7六平のゲームメイク、パス能力のセンス、MF14米田の力強いゴール前までの飛び出しなど、今年の育英の2ボランチは例年以上に得点への意欲が高く、結果として攻撃に厚みがある。
悪い時の育英は前線任せとなって個人個人が前線で孤立する場面が多かったが、今年の育英は右サイドバックのDF18木村らの上がりも含め、攻撃に可能性を感じる。
問題は結果的に2失点してしまっているという、最近の育英にありがちな守備の脆さか。
昨年も出入りの多い試合ばかりで、最後は失点の多さに泣いた。
この問題点を12月末からの全国大会までにどう修正して戦っていけるか。
とにかく育英の、全国への挑戦に今年も期待したい。
(08.11.15UP)
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