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平成10年度(1998) 第78回
天皇杯
決 勝 1999年1月1日
横浜FLUGELS 2−1 清水エスパルス


横棒



フリューゲルス、正真正銘の最後の日




・・・平成11年(1999年)1月1日・・・




この日を我々フリューゲルスファンは一生忘れる事など出来ないだろう。

この元日という特別な日に、サッカー協会公認の公式試合をやれるチームはたった2チームだけ。

天皇杯の決勝を勝ち抜いてきたファイナリスト達のみがこの日本一を決める晴れの舞台に立つことを許される。


そのたった2チームに、我らがフリューゲルスは残った。

残ったというよりも残ってしまった。


そう、この大会、負ければその場でチーム解散、消滅という事が運命付けられた、もはや消える事が決まっていたはずの、もうフロントやスポンサーからは要らないと捨てられたチームだというのに、この日本一のチームを決める決勝まで残ってしまったのだ。



どうするんだ?

勝って優勝したらどうしてくれるんだ?

お前らは、この日本一のチームを勝手に終わらそうとしているんだぞ??



ファンやサポータ、選手達に一言の断りも無しに勝手に同じ横浜のライバルチームとの合併などを安易に独断で決めたフロントやメインスポンサーのお偉方に対し、この強烈なまでの現実を突きつけてしまったという事実。

なんたる皮肉、なんたる運命、なんたる悲哀。



あまりにドラマチック過ぎて、現実の事なのか、おとぎ話の事なのかすら、今2011年の現在この文章を書いていても、いまいち実感に欠ける。


しかし、これは紛れもなく事実だった。
信じられない勝手なまでの一部の人間達の愚かな判断と、それに必死で対抗した選手やサポータらの力が結集した、本当の、筋書きの無いはずの真剣勝負の舞台での結果だった。



選手達は必死にチーム存続の可能性をさぐりながらも、最後に残されたこの大会に臨むにあたり、結局はもはやサッカーをするしかない、と自分達にできる最大限の誓いを立てたわけだ。




こうなったらサッカーをするしかない。



そしてこのあまりにも理不尽な現実が、このあまりにも愚かな事実がいかに大間違いの馬鹿野郎であったかを実力で証明し、後世まで引き継いでいかなければいけない。


それを証明すべく、フリューゲルスの選手達は必死に戦い抜いた。

そして消滅が発表された日からのリーグ戦4戦を全勝で勝ち抜き、そのまま天皇杯の4戦もこれまた全勝で勝ち上がってきたわけだ。


偶然の要素が大きく作用するサッカーというスポーツにおいて、絶対的な勝利など無いと当時の私は考えていたが、このフリューゲルスの戦いを目の当たりにし、絶対という存在を信じざるを得ないほどの運命的なものを感じた。

圧倒的なモチベーション、チームが1つになってひたすら勝利を求める事の強さというものがサッカーにとっていかに重要なファクターであるかという点について、このフリューゲルスの戦いぶりは後世にとっても非常に興味深い事実となるはずだ。



自分達がここに存在していたことを、未来永劫残すためにも。

この天皇杯という舞台を優勝で飾り、その名を永遠に刻み込むための正真正銘、最後の戦いはこうして幕を切った。







・・・ちなみに私事ながらこの日、ようやく消滅発表後、はじめて観戦に駆けつける事ができた。

当時北関東の山奥で働いていた私にとって、準決勝までの西日本での舞台はあまりに遠すぎた。
横浜で起きている大騒動すらかじりつくようにテレビで情勢を見守るのが精一杯だったのだ。

もし決勝の国立まで辿り着いてくれたなら私も観に行ける・・・

そう必死に願った祈りが通じた。

当時新潟に帰郷していた親友もこの日ばかりは新幹線で東京まで駆けつけてくれ、最後の舞台に私も足を踏み入れる事ができた。




・・・あの超満員の国立・・・

バックスタンドとゴール裏の中間あたりの決して広くはないごく狭いながらもようやくチケットを確保したSA席FLUGELS側にようやく身を沈み込め、左側からの白と水色の応援団の最後の大声援、大合唱を聞きながら、本当にこの声援をチームに届ける事が出来るのも、これが最後なのかと、この目の前の事実は本当の事なのだろうかと、やや放心状態だったように記憶している。




・・・ただひたすら清らかに澄み渡った、フリューゲルスの純白の翼が舞い上がるに相応しい、どこまでも青く高い空が広がっていた記憶だけがある。

元日という真冬の中でも、寒かったという記憶がなく、それよりもこのフリューゲルス最後の晴れの舞台をどこか日差しは暖かく迎えてくれていた。
ビデオでは北西の風が白と水色の旗をなびかせてはいるが、しかし私の記憶には風などはほとんど感じなかったように記憶している。
とにかく日差しを浴びた緑のピッチがひたすらに眩しく、そこに白のフリューゲルスとオレンジのエスパルスの選手達が躍動するのみだった。


しかし時間だけは無情だった。
そんな清らかな澄み切ったいつまでも存在して欲しい空間は決して永遠のものではなく、チームが存続できる残りわずか90分間と限られた時間を告げるホイッスルがそんな空に響き渡った。

本当に、あと何分、何秒このチームを見る事ができるのだろうかと、放心状態の中で必死で貴重な1分1秒を噛みしめ目に焼き付けていった90分間だった。





2020年5月2日、BSでの再放送

このページ自体は東日本大震災でJリーグなども自粛された時期にアップしたものだが、現在2020年5月、世界は新型コロナの影響で全世界的にサッカーが自粛となり、世の中もステイホーム一色。
そんな中でテレビ業界も再放送、再編集系に頼る他なく、NHKのBS放送でこのFLUGELS最後の試合を再放送してくれることとなった。
多くのFLUGELSファンが当時VHSでは録ったものの、今や時代はDVD、そしてブルーレイの時代。
手元にはあるけど観られない・・・という人も多い中で、こういった再放送は本当に有難い。

そしてゲスト解説者としては、我がFLUGELS永遠の守護神・楢崎がネット回線で出演!!

当時、消滅(正確にはマリノスとの吸収合併)が発表されてから、FLUGELSは公式戦9連勝をしたわけだが、そのモチベーションとなったのは、やはり試合でアピールすることで、どこか拾ってくれるスポンサーが表れてくれないかという選手達の思いがあったとのこと。

そしてこの最後の試合となった天皇杯決勝も絶対に勝つという思いで戦いに赴いたとのこと。

さらに試合後は未だにガンバ大阪でレギュラーとして君臨する現役唯一の元FLUGELS選手・遠藤ヤットもビデオ映像で出演となり、元々大好きだったFLUGELSでプロのキャリアをはじめられた幸せ、特に同じポジションの山口素弘からは多くの事を学んだという感謝を示し、楢崎と共に2月の開幕戦で達成たJ1最多出場631試合について、リーグが再開となったらもっと超えていきたいという、もう40歳になる中だが、抱負を語ってくれた。

もうFLUGELSが消滅してから20年を過ぎているわけだが、FLUGELSは今でも我々ファンの心の中で生き続け、そしてあんな悲劇がもう起こらないよう、永遠に教訓でいて続けてくれている。。。

とにかく今は無事リーグが再開され、これからもサッカーの文化が日本で生き続けることを願うのみ。



薩川欠場のFLUGELS

FLUGELSは前節の退場でキャプテン山口と共にJリーグ開幕時からずっとチームを支えてきた守備の柱・薩川が欠場。

その代わりにMF7原田がリベロに入り、これまでリベロを務めてきた前田浩二は左ストッパーに入る。

実は多少記憶違いだったが、原田はこの天皇杯、ずっと控えだった。
てっきり半分は原田がリベロに入って戦っていた記憶が強かったが、天皇杯でのスタメンはこの決勝が初めてだったわけだ。

ただ、以前にも書いたが私個人としては、この原田のリベロが本当に好きだ。


その他は当然メンバー不動。
まさにベストメンバー。

特に、中盤の山口、サンパイオ、永井のトライアングルが累積欠場もなく揃っている点が連戦である大会としては奇跡的だ。
ここだけは本当に代わりがいない。



9吉田 22久保山

10永井
6三浦         12波戸
5山口 8サンパイオ

13前田 7原田 4佐藤尽

1楢崎


ベンチにはFW28大島秀夫、MF24氏家、MF29アンデルソン、DF2佐藤一樹、GK16佐藤浩


それにしてもここに育英出身でこのHPでも紹介ページのあるFW大島秀夫とDF2佐藤一樹がいるし、そしてその後はザスパにも在籍し、図南などでも長く群馬で活躍してくれた氏家が入るのが感慨深い。




清水エスパルス

決勝の相手は天皇杯の決勝がはじめてという清水。
準決勝ではあのピクシーや望月、平野らが揃っていた名古屋を下した。

エース長谷川、司令塔澤登、ボランチ伊東など、本当にこの頃の清水は黄金期。


ところでこのピッチにはその後ザスパにも来る事になるMFサントスやDF戸田がいる事も興味深い。




12ファビーニョ 9長谷川

10澤登
25市川         3安藤
5サントス 7伊東

14戸田 4森岡 2斎藤

1真田


ベンチはFW26平松、MF17アレックス、MF6大榎、DF19西澤、GK16中原




立ち上がり、右サイド安藤を起点に押し込まれる

冒頭に書いたとおり、ピッチ上は眩しいばかりの日差しが差し込み、最初エスパルス側は逆光となるためかGK真田は珍しく帽子をかぶる。



開始から攻め込むは初めての決勝の舞台に気合いの入る清水。

逆にFLUGELSはこれまでの、特に準決勝鹿島戦で見せたような流動的な動きが少なく、決勝の、しかもチーム最後の舞台で堅くなり、慎重しすぎてかえってミスばかりを連発するという入り方となってしまう。


2分には右FK、澤登の精度の高いキックから、マークを外してニアに入っていった長谷川のヘッドはバーの上に外れてくれる。
いきなりのピンチだった。
澤登のキックも良かったし、見事にニアに抜けてヘディングにいった長谷川健太もさすが。


3分も清水はFLUGELSの左サイド三浦アツからのロングスローからカウンターで左サイドをFWファビーニョが突破しにいくも、ここはリベロ原田がしっかり対応し、時間を稼いでカウンターを阻止。
いいね〜原田。自分が当時全幅の信頼を置く、7番を背負いながら特に守備に安定感がある大好きな選手だった。


しばらく立ち上がりからの清水ペースだったが、サンパイオ、山口、永井の中盤がボールを持てるようになると、かなり流れを押し返し始める。


10分、清水はまたFLUGELSのセットプレーからカウンター、右サイドの安藤が決定的なクロスを上げにいくも、1人戻っていた山口がこれをカット。
ファビーニョら2人もの選手が詰めていたので危ういところだったが、この辺のカバーリングはさすが。
もともと山口はセカンドボールを拾ったり、そこからミドルシュートを放つ役だったので、いち早く戻る役目となる。

更に11分にも安藤が右サイドからクロスを上げ、続けて12分にもサイドチェンジのボールをペナルティ右サイドで受けた安藤がすかさずゴール前にボールを入れ、これにファビーニョが詰めるも、GK楢崎が身を呈してこれをセーブ。

当時、右サイドのアタッカーといえばレッズの山田か清水の安藤かと並び評された安藤を起点に立て続けに押し込まれてしまう。



伊東のクロスから澤登のダイビングヘッドで先制を許す

12分、右サイド安藤からのグランダーのクロスがゴールファーポストの左側に入り、これに詰めにいったFWファビーニョとGK楢崎が交錯し、楢崎が腕を痛めた中だったがゲームは続行、そのまま勢いに乗る清水はリベロのDF森岡が思いきって上がってきて、左サイドの空いたスペースに入っていき、サイドチェンジのクロスを送る。

これを右サイドに中央から入っていった伊東が受けて、マークが来る前にゴール前へのクロス。

これに澤登のダイビングヘッドがドンぴしゃで決まりゴール左隅へ・・・


・・・・・・・・!!!!???・・・・・・・・・


なんとこれが決まってしまう。

先ほどのGK楢崎の交錯の時に、FLUGELSとしては本来ボールをピッチ外に出して一度ゲームを切っておくべきだった。
GKが痛めたわけだから、それについては合法にゲームを切れるチャンスを自ら絶ってしまった。

エンゲルス監督は岡田主審にゲームを止めなかった事への抗議をするが、それよりも自分達でピッチ外にボールを出す判断をすべきだった選手達に、この決勝の舞台での尋常ではない精神状態が感じ取られる。


それにしても、ここまで天皇杯では常に先制点をとって優位に試合を進める展開が多かったFLUGELSにとって、このまさかの失点は大きくのしかかるものとなる。
やはり勝負の世界はそんなに甘いものではない。
運命の女神は決してこの悲哀なるチームに勝利を約束してくれているわけではない。

そう、あくまでこれはどちらのチームにも平等に勝利のチャンスが与えられた、本当の真剣勝負なんだ、という当たり前の事を今更ながら気付かされた。




エスパルスはやはり当時24歳と、あのオリンピック代表でブラジル戦から得点を奪った伊東がまさにチームの主軸となり、サントスがサンパイオと同じくアンカーの位置に入るため伊東はかなり前目のプレーが光った。

またゴール前で再三フリューゲルスを脅かしたファビーニョと長谷川がDF陣のマークをつる中で、澤登がうまく1.5列目でマークを外した巧みさも見事だった。



ボールを支配され苦しいフリューゲルス

フリューゲルスは左サイド三浦アツのロングスローなどで、得意の得点パターンを狙うもこれはことごとく清水の3バックにはね返され、逆に18分にはカウンターから右サイドをファビーニョがクリアがはね返ったボールを拾ってゴール左に出し、長谷川のシュートはバーの上を越えてこれは助かる。

先制されただけでも辛いのに、2点目が決められては本当にやばい。


その後も押し込まれた後のクリアボールをエスパルスに拾われまくり、どうもまだフリューゲルスの守備もエスパルスの早い球回しについていききれておらず、次々とスペースがある選手にボールを入れられてしまう。


それに対しフリューゲルスはようやく三浦アツらが得意のドリブルに入っても、3バックと中盤のラインがさっとラインブロックを形成し、付け入る隙を与えさせない。


26分、エスパルスはファビーニョが佐藤尽のファールを受け、ペナルティ手前右サイドからFKを得る。

合わせにいくかと思われたキッカーのMF10澤登は、ここで意表を突いてファーポストのゴール左上を巻いて狙いにいく。
これに対し、GK楢崎はさすがのリーチと反応でこのシュートを右手一本でバーの上にはじき飛ばす。

このプレーでもポストに激突し痛める楢崎、これまでの戦いに比べ、明らかにこの試合、楢崎への負担が大きい。

ここまで苦しい戦いになろうとは、正直予想はしていなかった。



その苦しさを反映するかのように、29分にはエスパルスの市川がボールをカットして攻撃に転じようというところでMF5山口がスライディングにいきイエローをとられてしまう。



長谷川のポストを止められず流れを掴めない

しかし先ほどの山口のイエローをもらったものの、前からの意識が高ままった辺りからやや押し返しはじめたフリューゲルスは、同29分には三浦アツが得意の左サイド深くへの切れ込みから、ゴールライン際でマイナスの折り返しをゴール前に入れる場面も作る。

30分過ぎからは司令塔永井もボールに触れる回数も増えていき、これまでほとんど攻める事が出来なかったエスパルス陣内にボールを運べるようになるが、しかしエスパルスもDF、MF、FWの3ラインがきれいに揃う形でこれを待ち構えるため、遅攻の形ではほとんど出すところが無い。
そういえば、FLUGELSはほとんどここまでシュートも無い。

対するエスパルスはポストに入る長谷川、サイドのスペースに抜け出すファビーニョのラインが健在で厄介であり、まだまだ押し込まれる我慢の時間帯は続く。
思うに、やはりここまでDFラインを引っ張ってきたDF3薩川の不在の影響も正直見られる感があり、マークの付き方に甘さがある。


37分、1回永井にボールが入った事をスイッチが入ったとみたか、それからボールを奪われエスパルスがボールを前線に入れていこうというところでリベロ原田が思いきってインターセプトにいき、そのまま攻め上がり、エスパルスのDFラインをやや下げさせたところでFW22久保山のミドルシュートはバーの上。

流れが悪い事は自覚しながらも、個々の奮闘でどうにか流れを変えようとする。


だが41分にもFW9長谷川がポストに入り、裏にボールを出されてMF7伊東が左サイドを抜け出し、マークも追いつききれないまま伊東の1対1気味のシュートはGK楢崎がファインセーブでこれをセーブ!!

先ほど30分頃にやや流れを掴みつつあったが、結局はまだエスパルスの長谷川らを止め切れていない事で流れを掴み切れないまま前半が流れていく。



山口のパスから久保山が電光石火のターンシュートで同点!!!

どうにかこのまま1点差で前半をしのぎ切るしかないか・・・そんな雰囲気のまま前半も3分のロスタイムを迎える。
(3分??2020年の今ではそうは見られない前半のロスタイム時間)

それまで攻撃に比重を置いていたエスパルスも無理はせずにボールを繋ぐ。

ロスタイム1分には右サイドでファビーニョを前田浩二が倒し絶好の位置からのFKを与え、絶望的な22失点目だけは勘弁してくれ、と悲痛な場面が続く。


もうこれで最後という前半ロスタイムも2分を過ぎたところで、フリューゲルスが前半最後の気迫を見せて佐藤尽が左サイド三浦アツに入れた長い縦パスから攻撃をしぶとく繋げ、右に入れてから中央を伺い、ブロックされながらもまた左サイドから、と諦めずに攻撃を続ける。

しかしエスパルスの3バック+5人の中盤の分厚い守備が敷かれ、ほとんどスペースなど無い。

どこかで引っかかってタイムアップか・・・そう誰もが思った手詰まり状態の中だった。


左右で振った後に中央にボールが入り、MF5山口がバイタルエリアでペナルティライン上のMF10永井とワンツーの形でボールを受け、ダイレクトにフワッとしたボールを目の前のDFライン裏に入れると、この一瞬の、針の穴のようなスペースに入っていったFW22久保山がDF2斎藤のマークを背中に受けながらも鮮やかなターンでボールを受けながらこれをかわし、そのままシュートをゴール左下に流し込む・・・


GOOAAALLLLL!!!!


マジか!!!久保山!!!!!

誰がこの場面で、前半のうちにフリューゲルス側に得点が生まれようなどと予想できただろうか。

99%可能性が無い中、むしろ追加点が獲られないのが奇跡的な状態の中で、わずか1%の可能性にかけて山口、久保山のホットラインがほんのわずかな隙を突き、そして恐るべきキレ味のターンでこれを決めてみせた。

おそらく攻撃練習でもう1回やれと言われても、そう簡単には決まらない、こういう極限状態の中だからこそ実現したゴールシーン。



この得点の裏にはGK楢崎の身を呈したファインセーブの数々を始めとした、追加点を与えなかった守備陣の奮闘、逆に言えば追加点を獲れなかったエスパルスの手落ちが招いた事もある。


今思えば、この得点が本当に大きかった。
これだけ圧倒的に攻められてしまった中で、それでも前半終了間際という最高の時間帯に同点で折り返す事の意義。

このほんのわずかな一瞬の隙が勝負を決める事となる。




ハーフタイム・・・

は!!もうハーフタイムなのか!!??
あまりにFLUGELSが圧され、戦いの行方をハラハラしながら見守るのがやっとで、これが最後の戦いであることを当時の私もこの時まで忘れていた。

もうあと45分だけが残された時間か・・・

残り45分で出される結果はどうなるか。

それ以上にあとこのチームが観られるのが、存在する時間が45分間しかない・・・

こんな複雑な気持ちで観るサッカーなんて、この先あるのだろうか。



・・・あるわけがない。

もう2度あってはいけない。

せっかく日本一を決める晴れの舞台だというのに、それが同時にチーム消滅までのカウントダウンであるなんて、そんな馬鹿な事が2度とあってなるものか。


そんな事を考えているうちにハーフタイムも終わり、無情にも残り45分の時間を告げる後半開始のホイッスルまで時間はあっという間に過ぎ去っていった・・・

横浜フリューゲルス 最後の天皇杯決勝 清水戦





後半、山口の惜しい2発

後半開始2分、前半と同様軽快な動きで一歩先を行くエスパルスに対し、中盤でボールを受けたMFサンパイオもさすがにDFラインにボールを戻さざるをえず、後半もまだまだ厳しいか、と思われたところだったが、そのDFラインの中央に入る原田はさすがのパスセンスから前線に思い切ったクサビのボールを入れ、いったん左サイドに展開してから一気にMF永井がペナルティ左隅をドリブルで切れ込みシュートにいく。

そのシュートがDFにブロックされるも、すかさずその裏まで入れ替わる形で上がっていたMF山口が立て続けにシュートを放ち、これはゴールニア左でGK真田がなんとか弾き出す。

前半はこういった原田の出したようなクサビのボールが少なかったFLUGELS、やはりこういった相手DF陣を押し込む事が重要だ。


守備でもFLUGELSは前半の堅さが取れて前からボールを奪おうという積極性がみられ、MF永井も中央に構えているだけでなくサイドにも流れ、その空いた中央のスペースにはMF山口が入っていくといった流動性がみられる。


10分、右サイドで波戸や久保山らが起点となり、いったんボールを逆サイドの左に展開させ、後方のサンパイオのサポートも受けながら同点ゴールを決めた時のようにしぶとく攻撃を繋げる。
そして中央ペナルティライン左寄りでボールがこぼれたところで、またしてもMF山口が左足を振り抜き、これが強烈にゴール右下を捉えるも、これはGK真田が左手一本伸ばしてのファインセーブでライン外に弾き出す。
しかし山口素弘は左でもあれだけ強烈なシュートを撃てるのか・・・あまりこれまでも左でのシュートの覚えが無いが、これは意外だった。

早くも後半、山口の惜しい2発が生まれたように、両サイドを起点とし、最後は永井、山口らが中央から決めにいくという、まさにFLUGELSの形ができる。



エスパルスはアレックス投入で流れを変えに

15分、ペナルティ手前中央でFLUGELSがファールをもらったところで圧されているエスパルスは選手交代、足の怪我の影響に不安があるFW9長谷川に代えてFW17アレックスを投入。

当時21歳とまだまだ若いアレックスはリーグ屈指のスピードが武器。

このFK、三浦アツが得意の落ちるボールでゴール左上を狙いにいくも惜しくも落ちきらずバーの上。


17分、エスパルスは右サイドでファビーニョが落としたボールから澤登がペナルティ右隅に侵入しながらの右足アウトにかけにいったシュートはバーの左。

どうやらアレックスは左サイドのハーフよりに入り、それにより今日も1点獲って乗っている澤登が1.5列目くらいまでポジションを上げている様子。

22分には永井の中央からのドリブルが引っかかるも、後ろから山口がサポートして更に中央から崩しにいくFLUGELSに対し、23分エスパルスは澤登がドンぴしゃのタイミングでスルーパスをゴール左前に送り、ファビーニョがスピードを活かして突っ込むも原田が最後までプレッシャーをかけて最後の折り返しのクロスの精度を狂わせる。


もう後半も半ばを過ぎたわけで、FLUGELSに残された時間はもう20分ちょっとしかない。

スコアは1−1。

もはやどちらに勝利が転がるかは全くわからなくなってきた。



ちなみに画面ではアンデルソンら投入を伺うFLUGELS側のベンチの動きが慌ただしく、後にザスパの監督となる佐野コーチが実況からも解説の加茂さんの教え子、木村さんのチームメイトと紹介される。



永井のタメから吉田の逆転ゴール!!!!

28分、永井が中央でボールをキープし、左の三浦アツに預けつつ、いったん後方に回ったボールをMFサンパイオがダイレクトにペナルティ左サイドに縦のボールを入れ、MF永井がボールを受け、得意のフェイントを入れながらわずかなタメを作りつつ、ペナルティ中央右寄りのFW吉田に。

FW9吉田、この左からのボールをうまく利き足の右にコントロールして落とし、受けるマークを半身ずらす形でそのまま右足でゴール右下にシュートを突き刺す!!


GOOAAALLLLL!!!!


素晴らしい!!!!!

同点の久保山のゴールは本当に素晴らしかったが、この吉田のゴールもやはりストライカーのゴールそのもの。

やはりここでも同点ゴールと同じくサイドに振りながら攻撃をしぶとく繋げ、そして最後は永井のさすがのタメから吉田のスーパーゴールとなった。


2トップがそれぞれ己のストライカー人生最高ともいえるゴールを決める・・・

これが本当に筋書きの無いドラマなのだろうか?

あまりにも出来過ぎているし、あまりにも美し過ぎる。


それにしてもあらためてこの試合をじっくり観ていて思うに、FLUGELSのこの久保山と吉田という若き2トップは、本当に機動性重視というか、前線からチェイシングでの貢献度が高く、しかし清水の長谷川やファビーニョのような存在感でポストやシュートといったところで目立つタイプではない。

これがこの時のFLUGELSの特徴というか、つまりは久保山、吉田の2トップはあくまで黒子で良い。

主役は中央の永井、として山口素弘であり、仕掛けるのは両サイドの三浦アツ、波戸で良い。

そして2トップはあとは最後のフィニッシュのところでだけ働けばいい。
この一瞬の時だけ本来のFWとして働くものだから、相手DFのマークもどうしても永井、山口や両サイドに気をとられ甘くなりがちだが、久保山、吉田の恐ろしいところは今日はじめて放ったはずのシュートの場面で恐ろしいほどの高い精度を見せるところだ。
ある意味生粋のストライカーと言える2人が共に若く、このタイミングでFLUGELSで揃っていたことが本当に奇跡だ。




後半、キレまくる永井

まさかの逆転ゴールを許したエスパルスは更に選手を投入、MF5サントスに代えてMF6大榎を投入。

だが34分、またもMF10永井が中央からボールを持つと、得意のドリブルでグングン前に入っていき、エスパルスもなかなかボールを取りにいけずズルズル下がる中で永井はサイドの選手を囮に使いながらも自らシュートをうちにいき、これは惜しくもバーの右を逸れる。


36分にもMF永井がペナルティ左隅前でボールを落とすと、そこに待ちかまえていたFW9吉田の強烈なニアへのシュートはGK真田がどうにか抑える。


サントス、大榎を投入したものの、逆転で波に乗るFLUGELSはそうそう止められない。

特に後半、自由にポジションを動き出したMF永井のキレ味が凄すぎ、エスパルスはこのフリーに起点を作りまくる永井の動きに非常に手を焼く。



38分、FLUGELSは先ほど殊勲の逆転ゴールを挙げたFW9吉田に代えてFW29アンデルソンを投入。

もう残り時間もおよそ10分。

このままFLUGELS有終の美を飾るか、残酷な運命の女神の気まぐれはまだあるか。

当時の自分としても早く試合が終わり、優勝を決めて欲しい気持ちと、その瞬間にチーム消滅が決まってしまうため、なるべく長い時間試合を観ていたいジレンマを感じながらの残り時間となった。



そして最後の終了のホイッスル

42分、前がかりになるエスパルスを尻目に、FLUGELSはアンカーに入るサンパイオがガッチリ止めて、すかさず前に送ったところから山口がカウンターにいき、中央で数的有利な場面を作り右の久保山へ。
久保山のクロスは長すぎたが、その後ボールを拾った三浦アツが果敢にゴール左前までフェイントを入れていき、切り返しからの左足でのシュートは惜しくもミートしきれずバーの上。

43分、残り時間も少ない中で清水がDFラインを削ってでも攻めに転じる中、FLUGELSも試合を決めるカウンターを狙いにいき、永井の中央突破から左右で久保山、アンデルソンが中央に入っていき、永井のスルーパスにアンデルソン完全には感じ取れず、これは惜しくもブロックされる。

44分、エスパルスもゴール左から押し込み、ゴール前でサンパイオとファビーニョが競り合い、ファビーニョのヘディングはミートしきれずGK楢崎が抑える。


そして試合はついに2分間のロスタイムへ入り、なんとエスパルスは投入したばかりのMF6大榎を下げ、なりふり構わず前線を増やすためにFW26平松を投入。


ロスタイムも1分を過ぎたところで、相手陣地でボールを回すFLUGELSは山口のパスからアンデルソンがゴール右前で攻め込み、利き足の左でのシュートはGK真田が抑える。


そしてエスパルス最後の攻撃にいくも、なかなかボールを入れるスペースを見出せないまま、ロスタイム2分を過ぎたところでタイムアップのホイッスルが鳴り響いた・・・



・・・確かにチームは消滅するかもしれない。

しかし今はこの優勝の喜びを皆で分かち合いたい。

選手もサポータもとにかくこの優勝を喜び合い、はじめにキャプテン山口とこの日は試合に出られなかった薩川が手すりにのって方を組む。


その後、大会のMVPが発表され、決勝弾を含む大会7ゴールを叩き込んだFW9吉田孝行に賞が贈られる。

サポータ席からは”復活祈願”と書いたプレートも掲げられる。
そう、ここから現在の横浜FCのチーム創立へ動きは起こった。
FLUGELSの商標はスポンサーのANAと共にマリノスに移行してしまっているため、正式に横浜FCはFLUGELSの後継チームとは認めてはいないが、しかしその横浜のチームは愛称をFLUGELSと同じく”フリエ”と呼ばれ、それは未だに応援歌にも刻まれている。
そう、FLUGELSの精神は確かに今でも生き続けている。



名ゼリフが多い実況の山本浩アナは最後に以下の言葉を残してくれた。



私たちは忘れないでしょう。

横浜FLUGELSという非常に強いチームがあったことを。

東京国立競技場。

空は今でもまだ、横浜FLUGELSのブルーに染まっています。





FLUGELS最後の監督となったゲルト・エンゲルスは試合前に話していた。

母国ドイツでは、カップ戦を獲ったチームは次々とスポンサーの名乗り出がある。
それなのにカップ戦に優勝しようかというチームが消滅するなんて、絶対あり得ないと。

しかし、この日本という国、Jリーグというリーグではこんなあり得ない事が本当に起きてしまった。



不敗の神話・最後のプレゼント

あまりの理不尽で、あまりにも勝手な一部の人間によって翻弄されたFLUGELSというチームは、しかし清らかな精神だけは絶対に汚させはしないと、その純白の翼を守り抜き、ついにはこの国立のピッチで優勝へと昇華させた。

吸収という言葉を使った事実上の消滅の一方的な発表から、リーグ戦4戦と天皇杯の5戦、計9戦をFLUGELSは全て勝ち抜き、ついにはその翼を一度も地につける事は無かった。

そう、一方的にフロントからチームの消滅が言い渡されようとも、選手達は9試合もの間、1回も地に頭を垂れる事無く、応援に来てくれたサポータ達に勝利の報告と共に永遠のチーム愛を共有し続けたわけだ。

その最後の聖戦となった98年天皇杯という大会とその優勝は、この先も永遠に語り継がれていくであろう伝説となるに相応しい、そして我々FLUGELSを愛するサポータにチームが贈ってくれた最後のプレゼントとなった。



 プレゼント・・・そう、この日試合前にサポータは強烈な皮肉を込めた”JITTERIN' JINN”原曲”プレゼント”の下記のような替え歌を大馬鹿野郎のフロントやスポンサーに大合唱で叩き付けた。

「あなたが私にくれた物 ロシア生まれの大男
あなたが私にくれた物 ブラジル生まれのサンパイオ
あなたが私にくれた物 ドイツ生まれのエンゲルス
大好きだったけど 合併するなんて
大好きだったけど 最後のプレゼント
BYE BYE FUCK YOU 全日空
サヨナラしてあげるわ」




チームの贈ってくれたこの最後の、そして最高のプレゼントを胸に、私は今でもザスパ草津のアシストパートナーとして地元のチームを応援しつつも、それ以上に横浜FLUGELSというチームをこの世で一番愛し続ける事ができている。

これだけの最高のサッカーを魅せてくれたFLUGELSという愛すべきチームよ、その勇姿は今でも我々の心に永遠に生き続けている。



最後の天皇杯優勝



(11.05.07UP)
(20.05.02追記UP)






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